土木工事から建物の建築事業、住宅建築までを手がける総合建設業の常盤工業株式会社(以下、常盤工業)。「地域から必要とされる企業になること」を経営理念に、次世代に向けたサステナブルな企業づくりを行ってきました。
2017年から働き方改革に着手し、ITツールを導入。2022年1月には、新社屋の「ときポート」を完成させ、より柔軟で自由な働き方にチャレンジしています。
大きく変わりつつある世の中のライフスタイルに合わせ、今後は在宅ワークにも取り組んでいくそうです。
事業も働く人もサステナブルであるために、どのような視点で「次世代の働き方」を作っているのでしょうか?代表取締役社長の市川浩透さん(以下、市川さん)と総務本部係長の 鈴木秀俊さん(以下、鈴木さん)にお話を聞きました。
会社名 : 常盤工業株式会社
設立 : 1951年3月
代表者 : 代表取締役社長 市川 浩透
所在地 : 静岡県浜松市中区新津町197番地
主な事業内容: 総合建設業(建築、土木、住宅)
総従業員数 : 97人 ※役員を除く
会社URL : https://www.tokiwak.co.jp/
人にも地球にも優しい企業でありたい、常盤工業の強い決意が表れた新社屋がついに完成
会社設立70周年という節目に改築工事をスタートした常盤工業の本社は、自然環境配慮型モデルオフィス「ときポート」として生まれ変わりました。環境設計はもちろんのこと、地域社会の発展やここで働く人々にとっても優しいオフィスを目指しています。
ZEB(ゼロ・エネルギー・ビル)の実現を期待され、国土交通省の「省CO2 先導プロジェクト 2019」にも採択された「ときポート」。まずはその館内をご紹介します。
中に足を踏み入れると、まず目に入るのが2階までの吹き抜けです。天窓から光が差し込み、明るく開放的な空間となっています。
取材当日は10℃に満たない外気温の中、コートを脱いでもポカポカと温かい館内には、なんとエアコンがかかっていません。これは、太陽熱で温水をつくり館内に循環させることで輻射熱により建物を温めることと、熱を蓄えるコンクリートの保温性に着目した「外断熱」と呼ばれる仕組みによるもの。
建物の躯体を構成するコンクリートの外側に断熱材を入れることで、執務室の温度を23~24℃に保っているそうです。
また夏は一級河川の天竜川水域に恵まれた豊富な地下水を利用。地下水の温度は年間を通じて 約17℃と夏は冷たく、そのまま館内を巡らせれば執務室の温度が25℃ほどに安定するそうです。
建物の東西に室内外の温度差を感知して自動開閉する換気窓を配置し、建物内にこもった熱を逃がしてエネルギー負荷を下げています。このように「太陽光」「地下水」「風」といった浜松の自然の恵みを最大限に生かしたオフィスが「ときポート」です。
常盤工業がサステナブルな新社屋を建てた本当の理由
人にも地球にも優しい建物を追求した常盤工業の新社屋。市川さんは、「サステナブルな現代企業のあり方をそのまま建物にすることを目指した」と語ります。
「『ときポート』で実現したい私たちのビジョンには3つの観点があります。1つには、地球環境への配慮という観点です。建物の建設・開発時に多くのエネルギーを使用する建設業の社会的責任として、省エネ・省CO2による低炭素化を目指しています。
2つ目は、働く環境の充実です。働き方の多様化に応え、社員が意欲・能力を存分に発揮できるオフィス環境を実現したいと考えました。
そして3つ目が、地域との交流・共生を深め、地域に愛される会社を実現したいという想いです」
「ときポート」の館内を見渡すと、たしかに地域との交流・共生を深める仕組みがたくさんありました。たとえば、飲食や仕事に使える広いカフェテリアスペースには、社員だけでなくお客様や地域の方も集まり自由に過ごせるといいます。
100名ほどを収容できる1階の大会議場では、 地域の方との交流イベントやセミナーなども開かれるそうです。
そんな常盤工業のビジョンに共感する地域の企業も増えている様子です。浜松いわた信用金庫の野口支店・曳馬支店は、支店の新築依頼とあわせ、なんと店舗を「ときポート」の敷地内に移転しました。
「ときポート」で地域との交流・共生を図る背景について、市川さんは次のように語ります。
「地元浜松に存在する価値ある産業や知見を、地域に循環させていきたいとずっと思ってきました。たとえば本社に隣接する倉庫には、静岡文化芸術大学の生徒さんに壁画を描いていただいています」
「春からは文芸大の学生さんが地元の浜松市立八幡中学校美術部の生徒さんにレクチャーし、一緒に壁画のデザインに取り組むという試みもスタートします。
美術の講師は外から呼ぶこともできますが、地元の大学生さんの『教えたい気持ち』と中学生みなさんの『絵で表現したい気持ち』が触れ合うことに意義があると考え、企画しました。」
そんな「ときポート」では見学会を定期的に開いているほか、地域の方々から希望があればいつでも立ち寄ってよいとのこと。1階の会議スペースでも、多彩なセミナーやイベント、展示会などを随時開いていくそうです。
見学会の開催予定(直近):https://www.tokiwak.co.jp/news/detail/?id=103
働き方改革はIT活用で現場の働きやすさを高めるところから
より快適で働きやすい本社ができあがった常盤工業ですが、実は、早くから働き方改革に注目し、2017年から取り組んできました。
「弊社ならではの次世代の働き方を検討することから始めようと、若手・中堅を中心とする10名の『働き方改革チーム』を作ったのが最初です。その後、建設・建築の現場は直行直帰を基本とし、現場ですべての仕事が完結できるようIT環境を整備しました」
と市川さんは当初の様子を語ります。続けて、働き方改革に取り組んだきっかけをお聞きしました。
「はじまりは社長である私の意志ですが、世の中の変化に合わせてワークスタイルを変えなければ、常盤は地域から必要とされる企業として生き残れない……と感じたことでした。
これだけITが発展し、弊社社員も使いこなせるようになってくれば、仕事のやり方が変わります。また現代では、出産や子育て、介護など、社員はさまざまなライフイベントを抱えます。そして2020年に発生したコロナ禍……。
もはや、『決まった時間に』『決まった場所に来て』『決まった仕事をする』働き方は、現実的ではないといえます。柔軟な働き方を作っていくことは、会社として必要な取り組みなのではないかと感じました。
働き方を刷新する目的の1つには、生産性向上をもくろんでいます。しかしながら何よりも、社員たちの満足度を高めたい。働きやすい時間と場所を選べることは、社員の意思を尊重することでもあります。そうすることで社員の満足度が高まり、結果として定着率や将来の採用力にも繋がっていくでしょう」
このように市川さんは、代表としての思いを教えてくださいました。そんな常盤工業では、大きく3つのステップに分け働き方改革に取り組んできました。
常盤工業の働き方改革(RTW :令和 トキワ ワーキングスタイル)
・第一弾 2017年~:土台作り
「働き方改革チーム」を新設。
常盤工業らしい働き方の骨子を固める。
IT面を整備し、情報共有やペーパーレス化を推進。
・第二段 2022年~:新たな働き方にトライアル
新社屋を建設。
フリーアドレス制を導入。
場所に捉われない働き方をスモールスタート。
・第三段 2023年~:リモートワークやフレックスタイムへの挑戦
就業規則をはじめとする各種規程の見直し。
働く「場所」と「時間」の選択肢を少しずつ増やしていく計画。
ルールや制度の面で働きやすさを支えているのが、鈴木さんをはじめとする総務本部のみなさんです。働き方を整備するうえで、まず導入したのは勤怠管理システムだったそうです。勤怠管理が重要だったのは、残業時間等の時間外労働対策が必要だったからだと鈴木さんは語ります。
「とくに現場監督の残業が多くなりがちで、みなさんの負担を減らせないかと思っていました。ただそれまでは、紙のタイムカードで管理していたので、一度、集計しなければ長時間労働の実態が見えません。労働時間の状況をタイムリーに把握できるよう、まずは勤怠管理システムを導入したのです」
「キングオブタイムには残業申請機能がついています。また、残業が一定時間を超えると管理者まで通知が来ます。こうした仕組みによって残業の管理がしやすくなり、全体の残業時間も削減できました。
スマホからなので有給休暇も申請しやすくなったと、有給休暇の取得率が上がったのは意外な効果でしたね。ITをうまく取り入れることで、社員みなさんのライフワークバランスが向上していくのを実感しています」
ITを活用することで、働き方も変わっていくことを体感した常盤工業は、その後、現場で仕事が完結できる環境を整備していきました。さらに「ときポート」の完成を皮切りに、働き方改革は次なるステップへと突入します。