テレワーク対応企業と未対応企業の間で開きつつある「生産性の格差」を正しくつかめていますか?

「テレワークを導入して効果が出るのだろうか?」「むしろ生産性が下がらないか心配だ……」そのように二の足を踏んでいる経営者の方は多いと思います。

実は、テレワークの実施企業では生産性が高まりやすいことが、さまざまな調査でわかっています。テレワーク未対応企業は生産性の格差が広がりつつあることを、正しく把握する必要があるでしょう。

そこで本記事では、テレワークと生産性の関係性について解説します。

目次

テレワーク実施企業と未実施企業で労働生産性に格差

テレワークの実施企業と未実施企業では、労働生産性に格差が出はじめています。テレワークによってどれだけの差が発生するのか、各種調査の結果を見てみましょう。

テレワーク導入企業は経常利益が増加傾向にある企業が1.6倍多い

テレワークの導入企業は、経常利益が増加しやすい傾向にあります。テレワークの導入によって企業活動が効率化し、労働生産性にポジティブな影響を与えるからです。

総務省は2017年に実施した「ICT利活用と社会的課題解決に関する調査研究」の中で、テレワーク実施企業と未実施企業における売上高と経常利益の増加傾向を比較しました。

この調査によると、売上高が増加傾向と答えた企業の割合は、テレワーク実施企業で27.8%、未実施企業では24.5%とそこまで劇的な差はありません。

ところが、経常利益が増加した割合は、未実施企業の22.3%に対し、テレワーク実施企業では36.7%にのぼりました。

その理由を総務省は、「テレワークの導入時にITを積極的に活用することで、企業活動が効率化したため」と結論付けています。そのほか、固定費が減らせるのも、利益率が高まる大きな理由です(営業利益率の改善に寄与)。テレワークを実施すると、オフィス面積の縮小やペーパーレス化による什器の削減などが可能になるためです。

参考:第1部 特集 データ主導経済と社会変革

前向きにテレワーク導入に取り組んだ企業は効果を実感

テレワークを実施した企業の実感はどうでしょうか?

総務省が2017年に実施した「ICT利活用と社会的課題解決に関する調査研究」によると、労働労働生産性の向上を目的としてテレワークを導入した企業のうち、「効果を実感している」と答えた企業は80%以上にのぼりました。

重要なのは、この調査がコロナ以前に行われた点です。つまり、感染症対策のために仕方なくテレワークを導入した企業はほぼありません。生産性の向上を目的としてテレワークに取り組んだ企業は、確実に効果を得ているということです。

テレワークの導入は、今までと同じ仕事を在宅で行うことではありません。経営上の課題を洗い出し、ITツールの導入による改善を目指す活動です。

テレワークによる働き方を可能にするためには、組織やコミュニケーションもオープンかつフラットにしていく必要があります。したがってテレワークを前向きに捉え、定着させていくことで、組織がブラッシュアップされて労働生産性が上がるのです。

2025年までに格差は決定的に

「2025年の崖」という言葉をご存じでしょうか?経済産業省が提唱している概念で、日本企業のデジタル化が遅れた場合の日本経済全体の停滞や国際競争への遅れを表す言葉です。

2025年までに旧来型のITシステムを刷新せずDXが遅れることが原因で、最大12兆円もの経済損失が起きると予想されるため、このような名前が付いています。

これは日本と海外の対比だけの話ではなく、国内でもデジタル化できた企業とできてない企業の生産性の格差が崖のように決定的になることを示しているのです。

2025年の崖の概念はデジタル化の話ですが、テレワークとも無関係ではありません。テレワーク導入は、さまざまなデジタルツールの導入を伴うからです。

「2025年の崖」で述べられているように、今後デジタル化に後ろ向きな企業は経営が厳しくなっていくと考えられます。一方でテレワークを推進していく企業は、それをきっかけにデジタル化も促進され、2025年の崖を回避できると考えられるのです。

参考:DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~

テレワーク実施企業と未実施企業で何が違う?生産性に格差が生まれる3つの理由

テレワークの実施企業と未実施企業では、なぜ労働生産性に格差が生まれるのでしょうか?それは、テレワークを導入した企業では、業務や組織の改革が進むためです。

テレワーク実施企業と未実施企業の違いは、次の3つに大きく現れます。

  1. 社員の帰属意識とモチベーション
  2. コミュニケーションの質と社内外の協力体制
  3. 未対応企業は悪気なくお客さまに無理を強いる

1.社員の帰属意識とモチベーション

テレワークの実施が社員の帰属意識の向上に役立つことがわかっています。

Great Place to Work® Institute Japanの調査によると、テレワーク経験後に会社への帰属意識が高まったと答えた社員は20.5%にのぼりました。

テレワークで帰属意識が高まった理由は、「テレワーク中でも働きやすい環境や制度の充実(57.0%)」がもっとも多い結果になりました。理由の2位である「コミュニケーションが活発で人間関係が良好(29.7%)」な職場も、テレワークにより社員の帰属意識が高まる傾向にあります。

一方、テレワークにより帰属意識が下がったと答えた社員も12%います。おもな理由は、「コミュニケーションの頻度が減り、従業員とのつながりが薄れたから(54.8%)」でした。

つまり、働きやすい環境や制度を整備する姿勢と、コミュニケーションを損なわない工夫が、社員の帰属意識を高めるといえます。テレワークを起点に社員の働きやすさと向き合った企業では、社員の帰属意識が高まり、労働生産性も向上していくのです。

参考:<調査レポート>人材価値を高めるための取り組みに前向きな経営層の7割が「取り組みが自社の業績に好影響」と回答

2. コミュニケーションの質と社内外の協力体制

コミュニケーションの質と社内外の協力体制にも違いが見られます。テレワークを推進している企業では、コミュニケーションがラフで早いのが特徴です。組織がフラットで、情報データもある一定の範囲でオープンにされているためです。

コミュニケーションの手段がチャット中心になる点も大きな理由です。即座に連絡を取り、社内外の人をまきこんでプロジェクトを推進できるようになります。

テレワークでも働ける環境は、コミュニケーションの質を高め、社内外に協力体制を作りやすくしてくれます。そのため、プロジェクトの達成が早くなり、よりよい成果物を生み出していけるのです。

3.未対応企業は悪気なくお客さまに無理を強いる

今後もテレワークの導入が進まない企業では、お客さまに無理を強いる事態になりかねません。なぜなら、業務のデジタル化が進まないことで、以下のようなコミュニケーションコストをかけてしまうからです。

  • 紙の書類が残りFAXや郵送を強いる
  • 請求書や領収書の発行が遅く、会計処理の遅れを強いる
  • 紙の契約書なので締結まで時間がかかり、ビジネスの開始が遅れる

一方でテレワークを実施し、労働生産性の高くなった企業では、取引先とのスムーズなビジネスを実現しはじめています。間接業務は自動化や効率化を進め、空いた時間を顧客の「体験価値」に振り向けているからです。商品の認知からアフターサポートに至るまで、楽しさや心地よさを提供できる体制を作ろうとしています。

一方でテレワークに後ろ向きな企業は、顧客の体験価値を高める努力が不足しやすいかもしれません。「ITシステムが古いから」「社員がデジタルに不慣れだから」そのような言い訳が成り立ってしまうからです。

今はもう、良い物なら売れる時代ではありません。テレワークなど新しい制度の導入をきっかけに労働生産性を高め、付加価値を提供できる方向へと経営リソースを集中する必要があります。

まとめ:テレワークの導入を通じて労働生産性の高い企業体質に変わろう

テレワークの導入には、企業の労働生産性を高める効果があります。とくにIT活用による業務効率化によって、経常利益率が高まることが明らかになっています。

ただし、それらの効果を得るためには、テレワーク中でも働きやすい環境や制度を充実する姿勢が必要です。

その過程で、オープンな風土やスピーディーなコミュニケーション、社員の高い帰属意識が作られます。テレワークを通じて、労働生産性の高い企業体質に生まれ変わりましょう。

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