テレワークで社員の自己実現を、「御用聞き」から「提案型」の営業へシフトするサカエの取り組み

浜松市テレワーク事例、株式会社サカエ 営業・バックオフィスのデジタル化

2022年に創業75周年を迎える機械の技術商社、株式会社サカエ(以下、サカエ)。地元浜松を中心に、自動車関連のベアリングや油空圧機器などを販売してきました。そんなサカエでは、2000年ごろから提案型営業への転換を目指し、顧客価値を高めるためのIT施策に取り組んでいます。

その中で、2020年のコロナ禍にはテレワークを導入。事務作業の効率化も図りました。お客さまと接する時間が増加し、営業効率も向上するなどの成果が出ているといいます。今回、総務課長の川島健さんを訪ね、同社の取り組みについて伺いました。

【会社概要】

会社名   : 株式会社サカエ

設立    : 1961年

代表者   : 代表取締役社長 神谷 紀彦

所在地   : 静岡県浜松市中区野口町336

主な事業内容: FA商社、ロボット・工場設備機器の販売

総従業員数 : 70人

会社URL  : https://www.sakae-jp.com/

目次

営業効率を高める手段にテレワークを活用、商談時間の増加と残業時間の削減に貢献

総務課課長の川島健さん。ITツール導入を一任されている

「サカエでは、主に営業社員がモバイル(移動可能な)形態によるテレワークを活用しています。お客さま先や外出先でも作業ができ、直行直帰も選択が可能です」と、テレワークの現状を語る川島さん。

続けて、テレワーク環境を整えた背景も教えていただきました。

「サカエは、製造現場の生産効率や品質の向上を目的とした産業用機械や製品を納入する技術商社です。仕入れた商品をそのまま納めることもありますが、お客さまのお困りごと解決するための機械やソフトウェアを自社の技術力によって制作しています。

メイン顧客は大手メーカーさまで、お客さま1社を1人の営業社員が責任もって担当します。そのため営業は、お客さまとの時間をなるべく多く作り出し、お困りごとやご希望にいかに応えられるかが重要なのです」

営業社員が顧客に向き合う時間を増やすため、場所に捉われずに働ける環境整備を強化しているとのこと。具体的には、次の2つの取り組みに力を入れたそうです。

1)営業支援ソフトの「HubSpot(ハブスポット)」を導入

案件や顧客関係をオンラインで管理できるできるよう、営業支援ソフトの「HubSpot(ハブスポット)」を導入しました。お客さまと会話した内容や提出した提案書類、今後の提案内容や納品スケジュールなどを記録し、案件ごとに進捗を管理しています。

案件の詳細をHubSpotに入力するようになったことで、それまで1日の動きを細かく記載していた営業日報は廃止。「○○社の提案完了しました」「終業です、今から帰宅します」といった簡易的な報告をチャットで行うだけにしました。

2) CS(カスタマーサクセス)課にISSチームを再編

サカエには、お客さまサポートを専門とする「CS(カスタマーサクセス)課」があります。カスタマーサクセスとは、製品の販売後もお客さまの成功に責任をもち、フォローし続ける体制のこと。以前は営業課にアシスタントとして事務スタッフが所属していましたが、CS課内のISSチームとして再編しました。

ISSとはインサイドセールスの略で、社内にいながらして営業活動を行う部門です。見積書の送付や問い合わせなどに対応する中で、お客さまのニーズを読み取り、その後のアプローチにつなげます。事務というバックオフィス寄りの業務を自動化しつつ、営業と連携した付加価値の高い提案ができる体制づくりを目指しています。

サカエの電子化状況。ほぼ全ての業務にITシステムを適用し、バックオフィス業務の自動化も進む

以上の取り組みによる効果は、いかほどだったでしょうか?川島さんは次のように語りました。

営業社員はお客さまとの商談に集中しやすくなりました。事務作業時間が削減され、直行直帰もよりしやすく。以前は月40〜50時間あった残業時間も、月25時間ほどに半減しています。

ちなみに提案資料やトークフローは、グループウェア上のクラウドフォルダーに保管するようにしました。先輩社員の提案内容が好きな時に見られるので、営業スキルの向上に役立ちます。以前に比べてアポイントが取りやすくなった、という声も聞いています」

今後は請求書発行や発注などの事務作業も自動化し、生まれた余剰時間でお客さまサポートをより充実できるよう検討を重ねているそうです。

スケジュール管理もオンラインカレンダーを使用。社員の状況を一目で把握できる

デジタル化の早期対応がテレワークの導入を円滑にする鍵、「モノ売り」から「コト売り」への方向転換がきっかけに

本社1階にある「サカエトライセンター」。協働ロボットや3Dプリンターなどを備えている。
この場所から遠隔でお客さまへのプレゼンテーションを行うほか、フリーアドレス制を取る営業社員の作業スペースにもなる

実はサカエでは、2019年からビデオ会議やグループウェアを取り入れ、商談や案件管理のオンライン化を進めてきました。その下地があったために、コロナ禍でも大きな問題なく、テレワークを実施できたといいます。

「2020年5月。新型コロナウイルスのまん延によって、愛知県に緊急事態宣言が発令されました。サカエの豊橋営業所でも、週に2日ほどリモートワークをせざるを得ませんでした。

それでも、業務のデジタル化を進めていたおかげで、営業は直行直帰、自宅でのパソコン作業で対応できました

と、川島さん。さらには月1で集まっていた課長会議を思い切って廃止し、アジェンダをメンバーに共有する形にしたといいます。

会議をやめても業務に大きな支障は出ませんでしたね。案件管理をHubSpotで行っているので、マネージャーが進捗や課題感をつねに把握できていたためです」と川島さん。

ただ、実際にテレワークをする中で、課題も見つかりました。基幹システムに自社サーバーを使用していたため、内勤スタッフは出社しないと仕事ができなかったのです。

コロナ禍が治まる様子のない2021年5月、サーバーをAWS(Amazon Web Services※)のクラウド環境に移行し、内勤スタッフのテレワーク環境を整備しました。

※AWS|Amazonが提供するクラウドサービスのプラットフォーム。AWSを利用することで、仮想サーバーやデータベースをクラウド上に作成・使用でき、独自のアプリケーションを開発するなどできる。AWSのクラウド環境にアクセスして使用するので、ハードやソフトを購入・維持管理する必要がなく、サービスを利用した分だけ従量課金される。

なぜサカエでは、テレワークやデジタル化をスムーズに実施できたのでしょうか?その背景には、2000年ごろに始まるIT化への挑戦があったそうです。

川島さんは、当時の状況について次のように語ります。

「2000年ごろというのは、ITバブルが弾け、ただの“御用聞き”ではモノが売れなくなっていった時代でした。サカエでも危機感を感じ、『モノ売り』から、付加価値の高いソリューションを提供する『コト売り』へシフトしようと決めたのです。

お客さまとの接点を増やし、課題解決につながる提案をできるようにしたい。そうした考えから、情報集約や業務効率化のためにITを活用してきました」

営業方針を変更せざるを得ない事情があっても、社内のデジタル化を進めるのは簡単なことではありません。デジタル化を上手に進めるポイントを聞くと、川島さんは3つ教えてくれました。

  • ITツールやサービスを変更するのはリースアップや契約更新のタイミングにする
  • そもそも業務改善により工数削減できる業務は対象にしない
  • 現状のまま移行できるなど、社員に負担の少ないITツールやサービスを選ぶ

新たなITツールやITトレンドに触れるようにし、日ごろからお試しで使っているそう。よい提案には神谷代表も「どんどんやってほしい」と理解を示してくれるとのこと。テレワークの導入やデジタル化を進めるためには、推進者の役割が小さくありません。

テレワークは社員の自己実現をうながす働き方

「前に出るのはあまり得意ではないので、みんなが気持ち良く働けるようにサポートするのが性にあっています」と笑う

テレワークについて今後の展望を聞くと、川島さんは「社員教育と自己実現」と答えます。

「(テレワークの環境を整える中で)スキルの標準化といいますか、誰がしても一定レベルの仕事ができるようにしていきたいですね。たとえば新卒社員が入社後ほどなくパフォーマンスを発揮できるようになれたら。

それが仕事のやりがいにつながりますし、社長が大切にする『社員が誇りを持って働ける会社』という理念にも通じます。もちろん売上げは大切ですし、優良水準をキープしていきます。ただ、『働きがい』や『働きやすさ』が経営方針の真っ先にくるのは確かですね」

場所を選ばず仕事ができるということは、お客様の要望にスムーズに対応できるのはもちろん、新たな仕事へのチャレンジや自己成長へのきっかけにもなります。テレワークという柔軟な働き方が会社をより強くしていくことを、サカエの事例が教えてくれました。

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