テレワーク導入のためには就業規則の変更が重要!更改までのやり取りとポイントを一挙公開(前編)

テレワーク導入のためには就業規則の変更が重要!更改までのやり取りとポイントを一挙公開

テレワークを導入する際は従業員の働き方や仕事環境が変わるため、就業規則にも変更が求められます。厚生労働省からテレワークモデル就業規則が発行されていますが、具体的にどのように進めていけば良いのかは悩みどころではないでしょうか

そこで、今回は、株式会社Wewill(以下:Wewill)が就業規則をテレワーク用にバージョンアップしたときの様子をお届けします。就労の現状と経営ビジョンに合った就業規則を作り上げるため、計4回のディスカッションを実施しました。

当サイトのアドバイザーでもある嘉野内雅文社労士に中心となって進めていただき、水谷拓郎社労士にも適宜アドバイスをいただきました。現状確認からポイントの整理、草案の確認まで。Wewill独自の就業規則ができあがるまでの過程を4本の連載でお伝えします。

従業員が5~100名規模の中小企業向けに、テレワークを実施する上でポイントとなる労務設計やルール、実際に運用する場合の注意点などを公開しています。テレワーク用の就業規則を作りたいと考えている方は、ぜひ参考にしてください。

目次

テレワーク導入までの流れと就業規則の更改タイミング

テレワーク導入の流れ
テレワーク導入の流れ

テレワークの導入には、大きく分けて6つのステップがあります。さいしょにテレワークを導入する目的を決め、人事・労務などの現状を把握します。続いてテレワークの対象者や実施範囲を決め、就業規則の更改やテレワーク実施のための教育・研修を準備します。テレワークのトライアルを経て、課題の確認と改善につなげていきましょう。

そのうち、最初の3ステップ(テレワーク導入目的から対象者・実施範囲の決定)までが、就業規則の規程にも関わる部分です。従業員教育を始めるステップ4に入る前までに、よく社内ディスカッションを行いテレワーク就業規則の制定を進めましょう。

▼5STEPで解説するテレワークの導入ガイドはこちら
https://dwsc.jp/category/telework-installation-guide/

具体的なテレワーク就業規則の規程内容

テレワーク導入にあたりWewillで見直した就業規則上の項目
就業規則に規程すべき項目


就業規則に規程すべき内容は、大きく分けて16項目あります(上記の図を参照)。実務に即して、具体的な規程内容を検討していきましょう。図の項目内に記載している番号は、記事内小タイトルの番号と連動しています。本記事では、図の表示順に沿ってディスカッションの内容をお届けしていきます。

なお、現状の就業規則に記載のある項目はすべて、更改を要するか確認できると理想です。そのように現状を把握したうえで、テレワーク下ではどのような条件・ルールとすべきかを検討しましょう。

一般的な就業規則の変更ポイントと条文例については、導入ガイドの『STEP3労務管理・就業規則を見直そう』にて概要を参照ください。

1.まずテレワーク導入の目的を明確化する

嘉野内:このディスカッションでは、「1.導入目的の明確化」と「2.現状の把握」に取り組んでいきます。杉浦さんのお話をもとに、Wewillらしい働き方を就業規則に落とし込んでいけたらと思います。

まずはテレワークを導入する目的についてお聞かせください。一般的に多く見られるのは、育児介護の両立・支援やワークライフバランスの実現、通勤時間短縮による業務効率化を目的に掲げているケースです。

杉浦:すべて弊社にも当てはまります。より高次なレベルでは、新しいワークスタイルを取り入れることにより、新しい価値を見出すことが目的になります。

なぜなら、世の中が急速に変化する時代にあって、新しい在り方につねに挑戦し続けないといけないと考えているからです。テレワークへの挑戦は、Wewillのアップデートのひとつでもあります。

嘉野内:Wewillが大切にしている「独立自尊」の理念も就業規則の中に盛り込めると良いですね。そうすることで、企業のカラーも出てきます。

杉浦:そうですね。テレワークによって「独立自尊」の働き方をより体現し、より豊かな人生をメンバーに歩んでほしいと思っています。メンバーには、業務代行という現業の枠を超えて、お客さまとともに新しい価値を生み出せるようになってもらいたいという想いもあります。

そのときに、例えば、子どものお迎えや銀行・市役所に寄ることなど、細かい日常ごとを仕事の制約と捉えてほしくありません。柔軟な働き方を実現する方法として、テレワークを取り入れていきたいです。「ワークライフバランス」 ではなく、「ライフワークバランス」を目指したいと思います。

嘉野内:わかりました。Wewillならではの「独立自尊」の考え方は、ぜひ就業規則の中にも取り入れていきましょう。そのうえで、テレワークを全面的に認めるのか許可制とするのかはどうしますか?

杉浦:許可制が良いと考えています。「独立自尊」の理念にもとづき、プロフェッショナルになればなるほど、より自由度の高い働き方ができる設計にしたいです。

自律的な働き方とは、メンバーが自分自身で労働時間や生産性を管理できるというイメージです。自律ができない方にはテレワークを許可するのが難しいですし、そもそも弊社で働くことが難しいと思っています。

嘉野内:根底にあるのは、「働く時間や場所、労働生産性を自分で管理できる」という考え方でしょうか。自律をテレワークの原則的な要件にして、許可を個別具体的に検討していく方向になりますね。

2.テレワークの対象者・適用業務、申請のフローを決める

嘉野内:続いてテレワークの対象者についてお考えを聞かせてください。現状では、自律の基準をどのように設定していますか?

杉浦:人事考課にもとづく職位を基準にしています。Wewillでは、S1〜S5にM1〜M3、ディレクター、パートナーといった形で等級を10段階ほど用意しています。テレワーク対象者は、「S2」という等級以上の方にしようと思っています。

嘉野内:定められた等級以上といった適用条件はあるにせよ、原則として従業員全員がテレワークの適用対象になりますか?

杉浦:そうですね。テレワークできる仕事環境を自身で用意できることが、一定のキャリアレベルに昇格するための条件に組み込まれているようにしたいです。

嘉野内:わかりました。次に適用対象業務についてですが、御社にはどのような業務があるか教えてください。

杉浦:業務は、お客さまの会計業務や労務管理業務の代行がメインです。

嘉野内:例えばですが、従業員が100名規模の組織になったときに、職務ごとにテレワークする人とテレワークしない人をすみ分けることはありそうですか?

杉浦:今のところ、すみ分けは考えていません。もちろん、業務によっては会社やお客さま先で仕事をすることがあります。それ以外の業務・場面では、基本的にテレワークを推奨していきます。

嘉野内:それでは、基本的に、業務や職務に関係なく従業員全員がテレワークの対象者になるということでお間違いありませんか?そして、テレワークの許可を申請できるのは、一定の等級以上の方となり、等級が満たない方は原則としてオフィス勤務になりますね。

杉浦:はい。また、等級は人事考課のタイミングで更新していきます。

嘉野内:原則オフィス勤務になる方も、個別の事情で仕事と家庭の両立が難しくなった場合などには、テレワークの許可申請を行えるようにしますか?

杉浦:はい、個別に申請をもらうことがあっても良いと思っています。テレワークに挑戦してもらうと、個々のパフォーマンスが上がると考えているので。また、従業員側にテレワークをしなければならない事情が発生した場合の個別申請も可能にしたいです。

ただ、都度、申請を上げてもらうよりは、人事制度の中にテレワークの許可申請を組み込めたほうが良いです。人事考課のタイミングで、希望があればテレワーク型の雇用契約への更改を検討するイメージです。

嘉野内:わかりました。人事考課のタイミングに合わせてテレワークの許可を出すほか、家庭の事情やワークライフバランスの実現のために行う個別申請も受け付けるようにしましょう。

次に、テレワークの許可はどなたが行いますか?

杉浦:当面は、私が許可していきます。

嘉野内:それでは、申請と許可の手続きは、どのような形で運用していきましょうか。紙ベースなのかそれともシステム上で行うのかといったことです。

杉浦:申請自体は、口頭ベースでも良いと思っています。テレワークを許可した場合は雇用契約書を更改するため、合意した証拠は残ります。

ですので、「申請をもらう」というより「相談してもらう」に近いですね。個別やチームリーダー経由で随時相談してもらい、面談を組んで合意する。合意したら契約書を更改する。そいうった流れにしたいと思います。

嘉野内:わかりました。では、テレワークの許可申請は口頭ベースでの相談および申請が可能ということですね。許可した場合は、新たな労働条件通知書やテレワーク対象者向けの秘密保持に関する誓約書などを従業員に渡すといった手続きがあります。

3.労働時間の設定と最適な労働時間制度の採用

嘉野内:つぎにテレワーク勤務時の労働時間について見ていきましょう。労働時間制度はフレックスタイム制(※)を採用されますか?

※フレックスタイム制とは
一定の期間についてあらかじめ定めた総労働時間の範囲内で、労働者が日々の始業・終業時刻、労働時間を自ら決めることのできる制度。労働者は仕事と生活の調和を図りながら効率的に働くことができる。

「フレックスタイム制とは」
出典:厚生労働省 フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き「フレックスタイム制とは」

杉浦:はい。「銀行へ行かなければいけない」「子どものお迎え予定がある」「親の通院に付き添わなければならない」など、私事・家事都合が日常的に発生しますよね。そうした日常と仕事を自律的に管理するためには、フレックス制が向いていると思います。

嘉野内:かしこまりました。それでは、勤務を推奨する時間帯(何時から何時までを勤務可能な時間帯とするか)を決めたいと思います。

浦:企業のバックオフィスに携わる仕事なので、労働時間の設計はお客さまに合わせることが最優先です。そのうえで健全な勤務時間帯を考えると、7:00~20:00を勤務可能時間にするのが良い気がしました。7:00~20:00の中で、1日あたり8時間を標準労働してもらう。

最初は、0:00~24:00の間いつでも好きに働けるようにするのも良いかと考えましたが、メンバーを守る意味でも止めようと思います。働きすぎや深夜労働などで不健全な働き方に陥ってしまったとき、会社として止めてあげられなくなるので。

ちなみに、労働時間を考える際に深夜とされる時間帯は何時から何時までですか?

嘉野内:22:00~5:00が深夜帯です。

杉浦:では、5:00~22:00を勤務可能時間とするのも良いかもしれません。このほうが自由度の高い働き方になりますね。

ただ、現実的に考えて5:00に始業する場合があるのかどうか疑問です。就業時間に幅がありすぎると、朝から働く人と夜働く人ですれ違いが起きる気もします。

その場合、例えば、コアタイム(必ず勤務しなければならない時間帯)を13:00~17:00などで設定できるのでしょうか?

嘉野内:はい、できます。コアタイムは、社内コミュニケーションを取るためなどの理由で定めることが多いです。

もしくは、コアタイムを設けずにおき、定例ミーティングの曜日や時間をあらかじめ決めておく方法もあります。その場合は、定例ミーティングには原則として参加してもらうようルールを規程します。

杉浦:それでは、コアタイムを設けずに、7:00~20:00を勤務可能時間にしたいと思います。1日あたり8時間勤務すれば、どこかで全員の勤務時間が被りますよね。

嘉野内:ちなみに、20:00を越えて残業することはありませんか?

杉浦:例えば、「22:00まで勤務したので翌日は午後から勤務する」といった場合、残業の取り扱いはどうなりますか?

水谷:フレックスタイム制では、残業は各月の総枠で考えます。1カ月間の実労働時間を総計して、あらかじめ定めた月の総労働時間よりオーバーした部分が残業にあたります。

残業の考え方1-1
出典:厚生労働省 フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き

水谷:また、フレックス制を導入するうえで重要なポイントが、勤務間インターバルの採用です。勤務間インターバルとは、前日の終業時刻から翌日の始業時刻まで一定の時間以上に休息を確保することをいいます。

例えば、インターバルを12時間とした場合、前日20:00に勤務を終えたら翌日の始業は朝8:00以降にしなければいけません。なお、インターバルの時間は、企業によって異なります。

杉浦:なるほど。そうすると、勤務可能時間を7:00〜20:00にする必要はないかもしれませんね。5:00〜22:00で設定しておき、インターバルを9時間設ける形にするほうが合理的でしょうか。

水谷:そうですね、そうした決め方もあると思います。

杉浦:ただ、勤務可能時間の幅を広げると、社内のコミュニケーションが薄れてしまう可能性があります。個々がバラバラの時間帯・タイミングで勤務をしますので。かといって、勤務可能時間を狭めると自由度が低くなってしまいますし……。

かといって全員の勤務が被る時間を確実に作ろうと思うと、コアタイムが嫌がらせっぽく13:00〜14:00となってしまいます(笑)けっこう悩ましいですね。

水谷:勤務可能時間は、「極力守ってください」という推奨時間なんです。その時間帯外に働いたからといってペナルティはありませんし、必ず勤務してほしい時間帯があればコアタイムを定められます。

ただ、コアタイム内において勤務できなかった時間は欠勤扱いになってしまいます。欠勤の線引きをどうするかは、別途、議論が必要になりますね。

杉浦:欠勤まで管理が必要となるとマネジメントコストが上がるので、コアタイムはなくしましょう。また、せっかくフレックスタイム制を導入するなら、最大限から試してみたいと思います。

ということで、一旦、勤務可能時間をフレキシブルタイムの5:00〜22:00と定めることにします。

お子さんがいるため早朝や夜のほうが集中できるというメンバーもいるでしょう。社内のコミュニケーションは、業務を遂行していく中自然と生まれてくるはずです。お客さまやチームメンバーとのコミュニケーションが必要不可欠な業務ですので。

水谷:一度決めてみて、やりながら試行錯誤していくのが良いかもしれませんね。

杉浦:当初は、就業時間の重なる部分を強制的に作り出そうと考えていました。しかし、チームの組み方やタスクシェアの仕方などを工夫する形で社内コミュニケーションを活性化するのが良いと感じました。

また、お客さまやチームメンバーが仕事をしやすいように、自分の仕事を設計できる人は評価が当然高くなります。評価を通じて労働時間の健全性を担保していきたいと思います。

参考:フレックスタイム制での残業時間の取り扱いはどうなる? | 勤怠管理コラム (総務・人事のお役立ちコラム)

つづく『テレワーク導入にあたり就業規則を更改しよう!変更のポイントと考え方を一挙公開(中編)』では、フレックスタイム制下での労働時間の決め方や休日・残業の扱い方、就業場所やセキュリティ環境などについて考えました。合わせてご覧ください。

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