スズキの次なる100年は顧客とともに創り上げる!現場の声を聴くための戦略的テレワーク活用論

スズキ株式会社

『ハスラー』、『アルト』、『ワゴンR』など、多くのヒット作を生み出してきたスズキ。浜松を代表する自動車メーカーですが、実は今、100年に一度といわれる業界の大変革期に向き合い、変わろうとしているのをご存知でしょうか?

EV化や自動運転など、未来のクルマを考案しなければいけない……クルマに限らず、新たな事業を生み出さなければいけない……社内には前例がない中で見出した活路は、「現場の声を聴くこと」でした。

新規事業の重要な一角を担う次世代モビリティサービス本部では、現場でユーザーの声を聴くためにもテレワークを活用しているといいます。同本部の本部長である熊瀧 潤也さんに、スズキが向き合う「大変革の時代」と「現場力を高めるテレワーク」について聞きました。

プロフィール

熊瀧 潤也|
次世代モビリティサービス本部長。1993年スズキへ入社。25年にわたり海外営業に携わり、そのうち12年間はヨーロッパに駐在する。イタリアでは現地法人スズキイタリア社社長として、二輪、四輪、マリン事業の販売ネットワーク拡大に従事。2015年7月に帰国後は、海外営業企画部長として全世界のマーケティングを統括する。2017年よりコネクテッドカー事業立ち上げのため、コネクテッド事業プロジェクト長、コネクテッドセンター本社担当部長を歴任し、現職へ至る。

目次

交換した名刺は2,000枚超。新規事業をたった1人で立ち上げる覚悟も現場から

スズキ株式会社 熊瀧 潤也

同じ組織の中に長くいると、決まった取引先とルーチンワークをこなす日常が当たり前になってしまうことがよくあります。いつしか自社・自部門の価値観が常識として固定され、ユーザーの価値観とズレてしまうことも。

それだけにビジネスの現場に出かけ、ユーザーをはじめとする関係者の声を聴くことが大切になります。スズキの次世代モビリティーサービス本部は、その立ち上げ当初から現場を大切にしてきた部署でした。

当本部は、100年に1度といわれる自動車業界の大変革期に対応しようと、2017年に作られた部署です。当時はCASE(※)のC(コネクテッド:インターネットに常時接続するクルマ)に取り組むことだけが決まっていて、具体的に何をやるのかはまったく決まっていませんでした。『何ができそうか、まずは自力で探ってきてください』と部署の立ち上げを言い渡されたのが私です(笑)。

事業の構想も計画もないので、社員をメンバーに迎えられません。ですから自分1人で行動を始めるしかありませんでした。社内に前例がない新規事業だったこともあり、とにかくスズキの外に出ることにしたのです。具体的には東京へ出張し、コネクテッドに関連しそうな企業に話を聞きに行きました」

※CASE:Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Shared & Services(カーシェアリング・サービス)、Electric(電動化・EV)の頭文字をとった造語。

熊瀧 潤也

さまざまな企業に事業内容を聞くことで、次世代モビリティーサービス本部で取り組むべきテーマや協業の可能性を探っていったといいます。

「コネクテッドを事業の形にしていきたいなら、IT活用は避けて通れません。データ分析に強いスタートアップなど、協業できそうな企業をとにかく回っては、どんなことが実現できそうか対話を重ねました。

まるで夢みたいなアイデアもたくさん話していたと思います。ですが今、実際にご協力をいただいている企業は、そのときに親身になって話を聞いてくれた企業がほとんどです。

あるデータ分析の協力企業さんには、事業の立ち上げ時から講師役として私たちのチームに入ってもらいました。社員に知見を教えてもらったり、データ分析部隊を助けてくださったりしています。

対話を重ねることで、『この人とだったら一緒に働けるな』というのがお互いに分かってきて、阿吽の呼吸で動き出せる関係が作れたのです。今思えば、あのころ自由に動いてみてよかったなと思います」

熊瀧さんがこの時期に交換した名刺の数は、2,000枚以上にのぼるといいます。その後、2019年1月には「コネクテッドセンター」が新設され、課員を集めて現在の次世代モビリティサービス本部の形へと成長しました。

コワーキングスペースへの入居により社員レベルで地域企業との交流を深める

次世代モビリティーサービス本部が成長を見せはじめる中、熊瀧さんはしだいに自部署のメンバーも他社と触れ合う機会を作れないか、と思うようになったそうです。

社外の知見を求めて東京へ出張していた私ですが、一方ですべての社員が頻繁に東京へ通えるわけではありません。そんなとき浜松でベンチャー企業のコミュニティがあることを知りました。

そこで知り合った株式会社Wewillさんから、『地域のリーダー層に向けたコワーキングスペースを作るので入居しませんか?』とお声がけをいただいたのです」

Wewill代表の杉浦さんとの一コマ
Wewill代表の杉浦さんとの一コマ

「今は、The Garage for Startups(以下、The Garage)という名前になっていますが、ロボティクススタートアップのLINKWIZ(リンクウィズ)さんがはじめて構えたオフィスを、次なるスタートアップが育つ拠点として再活用するとのことでした(※)。スズキの社員もそこでベンチャー企業のみなさんと触れあい、日々意見を交わせたらと考え入居を決めたのです

※LINKWIZ社は2019年5月に現在の東区篠ケ瀬町へ移転。

The Garageの契約時には、とくに部署を制限しませんでした。利用者数の上限も定めることなく「スズキの社員なら誰でも立ち寄れる」形態にしたそうです。

「できるだけ垣根を低くしたいと考えたのです。The Garageには、入居企業のITベンチャーやクリエイターの方に会えますし、ベンチャーコミュニティを支えている運営オーナーさんとも対話できます。スズキの社員が思い立ったときにThe Garageに来られて、地域企業の人たちと触れ合う経験をしてもらえたらいいな、と思っています

The Garageの様子
The Garageの様子

他社と交流する拠点を浜松にも作った熊瀧さん。その背景にあったのは、従来と同じことをしていては、100年に1度の大変革期を乗り越えられないという危機感でした。

私たちの仕事というのは、従来の仕事のやり方で行っていては達成できません。まだない事業を思い描き、実現するチームだからです。事業計画はおろか、事業を生み出す方法さえも決まっていません。それらは、自分たちで編み出すしかないのです。

そこで必要な心構えが、起業家精神です。実はスズキでは、起業の本場であるシリコンバレーから起業家精神を学ぼうと、2016年から現地にオフィスを構え社員を派遣しています。ですが、もっと身近に社員が安心して飛び込める場が浜松にもあるぞ、と思ったわけです(笑)。

とくに本社のある浜松で、地元ベンチャーのみなさんから起業家精神を学ばせていただくことに意義がある、というのが私の考えでした」

その後スズキでは、社員のみなさんがThe Garageをはじめとする地域コミュニティとの関わりを持てるよう、さまざまなイベントに協賛・参加してきました。

第9回 Startup weekend 浜松の様子
引用:Startup Weekend 浜松 コミュニティページより

たとえば、2020年11月に行われた、3日間で起業を体験できるStartup Weekend 浜松で、スズキはゴールドスポンサーとして参加。テーマを「MOBILITY(モビリティ:交通・移動)」に定め、参加者から多くの事業アイデアを募るとともに、スズキ社員も部署の垣根を超えて大勢が参加しました。

ほかにも、地域の大学生を対象としたインターンシップを開催するなど、さまざまなイベントを企画・継続しています。2019年には、The Garageのメンバーとの協業でクルマを働く場所として活用するテレワークパーク構想もスタート。その後はコロナ禍もあいまって、テレワークのためThe Garageを利用する社員も少しずつ増えていきました。

現場力を高めるためにテレワークの戦略的活用を

現場力を高めるためにテレワークの戦略的活用

現場の声を聴くためにも、テレワークを戦略的に活用することは重要だ、と熊瀧さんは語ります。

ユーザーと向き合う時間を増やすために、現場で仕事が完結できる環境を整えるのが、私たちにとってのテレワークの意義です。そのように現場力を高めていく発想が、新たな価値を創り出そうとする企業には必要だと思っています」

熊瀧さんご自身も、「自分が考えてもみなかった角度から意見をもらえる」とテレワークだからこそ生まれる交流を大切にしています。

「テレワークでThe Garageに寄ったときは、インターン参加している地元の大学生さんに自分のビジネスアイデアをよく聞いてもらっています。学生さんたちは私にとっての『先生』ですよ。この先、世の中のニーズを生んでいくのはみなさんの方ですし、たいてい私が予想もしていなかった意見をくれますので」

The Garageの様子

「たとえば、車離れという言葉があるように、最近の若者がクルマに興味を持たなくなってしまったイメージがありませんか?私もそう思って学生さんたちに意見を聞くと、『クルマを持っている友だちはヒーロー(憧れの対象)』らしいのです。若い人たちがクルマを買わない理由を、私たちカーメーカーは、正しく掴んでこなかったのかもしれません。

このようにユーザーの本音を聞くためにも、テレワークで身軽になって、現場に出ていくことが大切です。また、テレワークできる環境を整えると、仕事のデジタル化も進んでいきます。企業価値を高める観点からも、重要な施策であることは間違いないでしょう」

最後に、これからの展望についてお聞きしました。

「お陰様でスズキは、2020年3月15日に設立100周年を迎えました。今、私たちが取り組んでいる次世代モビリティ事業は、次の100年に向けた挑戦の1つです。EV化や脱炭素をはじめ、自動車業界は急激なシフトを迫られています。これまでの事業を守りながらも、先入観にとらわれない新しい事業が求められていると感じます。

2021年12月には、インターネットを通じてお客さまのカーライフとつながるコネクテッドサービス(※)も無事にローンチできました。しかしながら、ここからが本当の勝負。お客さまからの声をもとに、データを分析し、より快適で安全なサービスにしていかなければいけません。

そうした中にあって、スズキの社員はいつでも現場を大事に思っていて、お客さまと向き合っているチームであれたらと思います。そのために必要なマインドを、テレワークを通じて高め合っていけたらいいですね」

※スズキコネクト:https://www.suzuki.co.jp/car/suzukiconnect/

編集後記|株式会社Wewill 代表取締役 杉浦 直樹

株式会社Wewill 代表取締役 杉浦 直樹

浜松市は、経済産業省のイノベーター育成プロジェクト「始動Next innovaotr」への参加者を例年生み出してきた地域です。私自身も「始動」に参加して一番印象に残ったのは、多様な人が集まりオープンかつフラットに志を共有する環境の中で、挑戦や行動が尊ばれていることでした。

また、これまでに浜松におけるスタートアップコミュニティに助けられてきた経緯もあり、浜松市に「始動」のような場を作りたいと思ったことがThe Garageを始めたきっかけです。LINKWIZさんが移転した直後でガランとしたスペースだったThe Garageに、熊瀧さんが入居を即決くださったことは非常に驚きました。

スズキさんが参加してくれたことでThe Garageに最高の多様性が生まれたと感じています。その後、さまざまな企業さまや学生インターンも入ってきてくれ、そのきっかけを作ってくださったのが熊瀧さんでした。

浜松のスタートアップやスタートアップコミュニティに参加している仲間のみなさんからたくさんのご協力を得て、挑戦できる場としてThe Garageがだんだん形になっていきました。今日のThe Garageの方向性、そして何よりオープンでフラットな文化を保てているのは、地域の交流を大切に考えてくださる熊瀧さんの在り方に寄るところが大きいと思っています。

引き続きThe Garageを通じて「挑戦の文化を地域に染み込ませていく旅」をご一緒できたらと思っています。そのためにも、The Garageも、そして私自身も、さらなる挑戦を続けることでご恩に報いようと思います。

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