杉浦:さて、前回は基礎的な考え方であるテレワークを許可制にするのか否かや、具体的な服務規程について会話してきました。
今回は、いよいよ時間管理についてディスカッションしていきたいと思います。テレワークを行う際に、ここが一番考えなくてはならないところだと思うのですが、解説していただいてよろしいでしょうか?前回同様に、以下2つの資料を基に会話していきたいと思います。
資料1:厚生労働省:「テレワークモデル就業規則」
資料2:水谷社労士作成「テレワーク勤務規程雛形」(PDF版)(WORD版)
水谷社労士:そうですね。時間管理については働き方そのものに関わる規程類なので、とても重要になると考えています。それでは随時解説していきます。
まず第6条(モデル就業規則P11~17参照)は、重要な労働時間について規程しています。
水谷社労士:労働時間をどのように規程するのか、ここでは事前に会社がどのような時間管理手法を採用するか、つまりフレックスタイム制や事業場外みなし労働時間制、裁量労働制など、どういった時間管理手法を採用するか定義をしなくてはいけません。
これは導入時に大きな検討ポイントのひとつになります。在宅勤務時においても、就業規則に規程された労働時間制が適用され、規程でその時間の使い方が定義されています。なお、休憩時間に関しては特に異なる定めはしていません。休憩は法的に取らなければならない時間も決められています。そこはテレワーク時も同様なので、随時自己管理で休憩時間は取得してもらわなければなりません。
杉浦:なるほど。ここでは、労働時間制の定義と勤怠管理の手法を考えなくてはいけないのですね。まさに働き方の根幹となる部分ですね。
水谷社労士:そうですね。そして重要な点として事業主と従業員の両方に理解しておいていただきたいのが、事業主には時間を管理する義務がある、という点です。義務があるので、「上手くやってよ」では通らないということですね。きちんと管理手法を確立していないと、必ずトラブルに繋がります。その点は双方理解しなければなりません。事業主側はもちろんコンプライアンスの一環として、きちんと管理することが最近では当たり前になってきましたが、従業員側の意識が追い付いていない場合もあります。面倒くさいからといって従業員の内、誰か一人が勤怠管理をないがしろにしてしまうと、結局全社的にテレワーク自体を取り辞めざるを得ないという事態になりかねません。
杉浦:なるほど、やはりテレワークはひとりひとりの「自律」がキーワードになるのですね。一方で、より簡単に双方に管理しやすい仕組みを作ることも重要だと思います。テレワークをやる以上は、クラウド型の勤怠管理ツールの活用など、ITを用いた管理が必須だと思います。双方の管理のハードルを下げ、自律しやすい仕組みづくりが必要ですね。
杉浦:あとは、労働時間制の定義。ここをどうしたいかが一番悩む気がします。テレワークでは、どういった制度を採用するのが一般的なんでしょうか?
水谷社労士:就業規則においても、職種で分けている場合があって、例えば営業職は事業場外みなし労働時間制で、一般的な事務職であれば9:00-18:00のような通常の労働時間制を採用するなど、職種によって分ける場合もあります。今回私が作成したテレワーク勤務規程では、事業場外みなし労時間制を前提に作成してみました。ただし、この機会により従業員に裁量を持たせるフレックスタイム制の導入を検討したりと、新しい働き方を検討する機会にしても良いと思います。
杉浦:そうですね、社内でも様々な職種がある場合、みんな同様というのは無理があるように思います。テレワークの導入が、ひとりひとりの働く時間の在り方を会社として再設計する良いきっかけにもなるかもしれないなと思いました。
水谷社労士:あとは事例集等を見ていると、実際に導入をしている会社で「ペイ・フォー・タイム」から「ペイ・フォー・パフォーマンス」、評価が時間から成果に基づいてなされるべきだという価値観の変化が起こった会社もあるようです。単なる時間を過ごしたことによる報酬というよりは、より成果主義的な働き方にシフトしているということも言えるかもしれません。
嘉野内社労士:今までは会社にいる時間が労働時間だったので、算出は簡単だったと思うのですが、やはりテレワークになると時間の管理方法を法律上もしっかり決めておく必要があるのかなと思いますね。
水谷社労士:第7条は休日について、これは通常と変わりません。第8条の休日労働や深夜労働については許可制にしています。(モデル就業規則P17~18参照)
杉浦:フレックスタイム制にする場合は、きっとこのあたりの規程が変わってくるんですね。
水谷社労士:そうですね、フレックスタイム制であれば1日の残業という概念がなくなり、月で決められた総枠を超えた分が残業という概念になります。今日休んだとして、その分翌日に調整することが可能になるというイメージなんですよね。
杉浦:なるほど。それだとより自由な時間の設計ができますね。その分自律的な自己管理が強く求められそうですね。それでも、週に最低1日は必ず設定しなければならない、法定休日に関しては変わらないですね。
水谷社労士:はい、これは次の機会にも議論をしたいのですが、実はテレワークを導入すると働きすぎてしまうという意見もあるんです。より自律的で成果主義的な考え方になるので皆さん頑張りすぎてしまうのかもしれません。ですので、法律的にも、長く良い仕事をし続けるためにも休日や労働時間をどう定義するかは重要な観点になると思います。
杉浦:そうですね。私の会社でもテレワークを導入すると、むしろ調子が悪いときにも「働ける」状況が生まれるので、「働かなくてはならない」という周りからの圧力が自然発生することを恐れています。そういったことは社風を健全にしてく努力と共に、やはり就業規則等である程度規程するなど、無理な労働を防ぐ仕組みを構築しなければならないと思っています。実際に就業規則の観点から、働きすぎを抑止することはできるのでしょうか?
水谷社労士:はい。やはりそれは、労務管理をよりきちんと行い、残業や休日労働を許可制にしているというところに集約されると思います。もっともそういった適正な管理については、テレワークに限ったことではなく、労務管理の中できちんと実現していくべきことだと思います。
嘉野内社労士:あとは服務規程の中に、「正しく報告をする」という項目をいれておくことも必要かもしれないですね。テレワークで勤務状況が見えづらくなる分、管理のためには正しい情報を報告してもらわなければなりません。良かれと思って無許可残業をするような事を会社側が防ぐような工夫が必要だと思います。
水谷社労士:第9条では欠勤についてです。欠勤は許可制で、給与の取り扱いについても通常時と同様です。
杉浦:ここに「給与規程●条~」と記載がありますね、テレワーク勤務規程を作る際には様々なおおもとの規程を参照しなくてはいけないことが分かってきました。テレワークの規程を整備すると同時に、まずは他の規程類がきちんと整備されている状況も必要なのですね。
水谷社労士:そうですね。この機会に改めて会社の中にある労働系の規程を見直し、全体の整合性を確認することも必要だと思います。
それでは第10条(モデル就業規則P19~20参照)に進みましょう。業務の開始と終了はどうやって報告するのかというところです。前回会話にあがった勤怠管理ツールについて(3)に出てきますね。
杉浦:労働法上はどんな管理でも問題ないのですか?
水谷社労士:客観的に残るものであれば問題がありません。したがって、自分で手書きするものなどは客観性に問題があり、推奨されていません。今は、カードをかざすものや指紋認証できるものなど、いろいろな方法があります。クラウド上で管理できるサービスも多々出てきています。
杉浦:客観的に証明ができるものが良いということですね!
嘉野内社労士:この規程について、私は勤怠管理とは別の視点で、会社にいない分、労使間で本当に業務を行っていることを確認し合うという視点も入っていると考えていました。(1)電話(2)電子メールというのが入っているのもそういった理由からかなと。
水谷社労士:報告の一環ということですね、それもありますよね。実例からですが、テレワークでは、孤独感というのも課題になっているんです。その中でこまめにコミュニケーションをとることも大事だという声も上がっていて、そういうことから考えてみると業務の開始時と終了時に電話などで報告してもらうこともコミュニケーションの一つという捉え方ができますね。
杉浦:テレワーク時のコミュニケーション設計についてはまたぜひ会話したいと思いますが、ここではさらに具体的なことを伺いたいと思います。打刻というのは労働法上必ず必要というわけではないのですか?
水谷社労士:原則、時間管理が必要なので打刻というのは有効な手段だと思います。テレワークではタイムカード等での打刻が難しい分、クラウド勤怠管理等でクラウドのシステム上で打刻を行う等の仕組みを導入することが望ましいと思います。
嘉野内社労士:客観的に見ることができるというと、そういうものになるでしょうね。会社には適正に労働時間を管理する義務があります。その際に、打刻は適正な管理の証明になるという意味があります。
杉浦さん:ここはまた次回議論するところかもしれませんが、テレワークになる分、業務の開始と終了を明確にする事はとても大事な意味を持つ気がしています。基本的には信頼関係がベースになってくると思うので、その信頼感を具体的に表現するものとして打刻があるのかなと感じましたね。
嘉野内社労士:打刻とは別に、実務的なところで考えるとWEBでの朝礼で確認をするというのもいい案だなと思います。
水谷社労士:それは実例がありますね。コミュニケーション不足の解決にもなると思います。
杉浦:そこは会社が目指す社風、働き方に応じた設計が必要だと思います。いずれにせよテレワークにおいても、WEB会議ツールや勤怠システム、チャットツールなど円滑にコミュニケーションをとることができる手段は今どんどん増えているように感じますね。
水谷社労士:そうですね、本当に今は手軽に使えるものがたくさんあると思います。第10条で開始と終了時の報告がありましたが、第11条では、業務について、決められた頻度で報告することを記載しています。テレワークで離れて仕事をする分、やはり通常の報連相にも工夫がいると思います。
杉浦:そうですね。ありがとうございます。テレワークを行う時のコミュニケーションの設計については別途考える機会を作りたいなと思いました。それでは、今回もありがとうございました。次回は第3回目ということで、それ以外の規程を最後まで見ていきたいと思います。引き続きどうぞよろしくお願い致します。
水谷社労士・嘉野内社労士:宜しくお願いします。
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【対談者プロフィール】
社会保険労務士 水谷拓郎氏
水谷マネジメントオフィス1981年生まれ。大学卒業後、システムエンジニアとして大手製造メーカーのシステム開発に10年間従事。 その後、社会保険労務士として独立・開業。企業の労務顧問業務のほか経営IT化支援にも力を入れている。 趣味はお酒、邦ロック、NBAなど。
社会保険労務士 嘉野内雅文氏
嘉野内社会保険労務士事務所1968年生まれ、金融業5年、人材派遣業に10年従事。その後キャリアカウンセラーを経験し社会保険労務士として独立開業。 楽しく働く職場づくりを支援する事を目的として活動している。 静岡県人づくり事業を静岡県から受託し、正社員への登用を増やす等、積極的な活動を行っている。
杉浦 直樹 氏
株式会社We will 代表1975年生まれ浜松市南区出身。大学卒業後日本オラクルにて会計ERPパッケージの13社同時展開プロジェクト等、多くのプロジェクトに携わる。同社退社後、米国ベンチャー企業を経て市内税理士事務所へ入所。その後、仲間とともに税理士法人We will、株式会社We willを設立。オープンイノベーション施設であるThe Garage for startups を主催。