2020年6月、浜松の市街地にオープンしたイノベーション・ハブ拠点の「FUSE(フューズ)」(以下、FUSE)。約2000平米の面積を誇り、コワーキングスペースとしては日本最大級の規模です。
創業にはじまり事業成長のあらゆるフェーズに伴走支援する浜松いわた信用金庫が運営し、新しいコワーキングスペースの在り方を模索しています。最近では、FUSE発のプロジェクトも多く生まれているとのこと。
FUSEの運営に携わる、浜松いわた信用金庫ソリューション支援部 新産業創造室長の渡瀬充雄さん(以下、渡瀬さん)と、調査役代理の上野直人さん(以下、上野さん)に、同金庫が手がける創業・新事業展開支援とFUSEの活用方法についてお話を聞きました。
【施設概要】
施設名:Co-startup Space & Community FUSE
所在地:静岡県浜松市中区鍛冶町100-1 ザザシティ浜松中央館 B1F
メンバーシップ料金(月額・税込):一般会員11,000円/法人会員33,000円/学生会員2,200円
利用可能時間:月曜日~金曜日 9:00~21:00/土曜日 9:00~17:00
※日曜日・祝日CLOSE
「ギブ&テイク」と「オープンマインドの精神」で強みも弱さも分かちあえる場所
一見するとカフェのような空間ーー。ですがその中には、起業家や地元企業の新規事業チーム、クリエイターやマーケター、大学生など、「新しいコトを起こす」を共通項とするメンバーによるコミュニティが形成されていました。
実はFUSEは、たんなるコワーキングスペースではありません。事業を立ち上げようとするすべての方のために、必要な設備やプログラムが提供されているのです。キッチンや談話スペースが完備され、メンバー同士の関係性もフラットです。
「経営者や起業家をはじめ、地域企業の新規事業担当者やフリーランスの方、学生さんまで幅広いメンバーがいます。職業も、ITエンジニアや研究職、クリエイター、医療関係など多岐にわたり、高い専門性を持った方も多いですね。
とくにテレワークを皮切りに東京からI・Uターンをし、FUSEのメンバーになってくださるIT人材が増えています。みなさん、システム開発やマーケティングといった領域で地元企業を支援してくださる貴重な人材です」
と渡瀬さん。
こうして多彩な人が融合し合うFUSEからは、さまざまな協業やプロジェクトが生まれています。
「その背景には、コミュニティの形成と相互扶助の精神を重視し、そこに浜松いわた信用金庫のFUSEスタッフも積極的に関与する、FUSEならではの運営方針が大きく関わっている」と上野さんは言います。
「FUSEの利用形態は、月額固定のメンバー会員が基本です。入会にあたっては『オープンハウス(内覧会)』に来て、FUSEのコンセプトをご理解いただく必要があります。
そのとき強くお伝えするのは、FUSEは『ギブ&テイクの精神』で成り立っているコミュニティである、ということです。自分の弱みをオープンにして助けてもらう『テイク』だけではなく、自分にできることを分け与える『ギブ』も積極的にしていただきたい、と。
そうした考え方のもと、立場や年齢、職業も異なる人同士がつながり、サポートしあえる温かさは、FUSEならではだと思います」
続けて渡瀬さんは、FUSEは「伴走力」も強みだと加えました。
「FUSEには、さまざまな外部経験を積んで専門知識やネットワークをもった浜松いわた信用金庫の職員が常駐しています。また私たちは長年、創業スクールやビジネスコンテストの開催や日々の伴走支援により、地域のみなさまの起業や新事業展開をサポートさせていただいてきました。
まさにこれから事業を立ち上げる方から、事業成長を目指す方まで、一気通貫のサポートが可能です。FUSEができたことで、より身近にみなさまのニーズに応えられるようになったと感じます」
浜松いわた信用金庫の各支店や各種ソリューションを提供する専門部署、行政や大学、VCなどとも積極的に連携し、起業や新事業展開にまつわる相談事項に多角的に応えているとのこと。そうした背景からFUSEのメンバー同士はもちろん、金庫のネットワークによっても人・企業がつながり、さまざまなプロジェクトが生まれているそうです。
オンラインとリアルを融合し、地域のあらゆるニーズに応えていきたい
コロナ禍において首都圏を中心にテレワークが普及し、コワーキングスペースの活用も進みました。一方、生産現場の稼働が必要な製造業が多い浜松市では、テレワークの導入がなかなか進みませんでした。しかし最近は状況が変わってきている、と上野さんは語ります。
「たとえば製造業であっても、新規事業の開発チームを中心にテレワークを実施する企業も徐々に増えてきており、FUSEに来ていただけるようになってきました。他社とのネットワークを広げる場として、FUSEを活用いただいています。
FUSEは、メンバーそれぞれがオフィシャルな立場にありながらも、オープンに関わりあえる場所。そうした場所に地域企業の方々が来てくださるようになったのは、この街の産業を活性化するための大きな一歩だと感じます」
渡瀬さんは、「テレワークの限界」も体験できたことは大きな収穫だったと話します。
「コロナ禍では、FUSEスタッフもオンライン会議が増えましたし、イベントがオンライン開催に変更になるなどを経験しました。その中で、テレワークのプラス面もマイナス面も知ることができたと思っています。
たとえば、チャットやオンライン会議なら場所に関わらずやり取りができ、効率がいいですね。一方で、1度でも対面で会えたときの距離の縮まり方には敵いません。
リアルに会えない状況をはじめは痛手と感じましたが、オンラインのミーティングだからこそ、距離に関係なく幅広いつながりも持てました。きっと、オンラインとリアルを組み合わせて使うのが正解なのでしょうね。
それでもやはり、FUSEにお越しいただくことで、より身近なサポートが可能となります。そうした意味でも、テレワークをうまく活用し、FUSEのようなコミュニティに出かけていただけたらと思います」
起業家から企業の新規事業担当、クリエイターまで、多彩なFUSEの利用方法
FUSEでは実際にどのような起業・協業が生まれているでしょうか?3名のFUSEメンバーからお話を聞きました。
新規事業のきっかけを求めにFUSEへジョイン|株式会社エフ・シー・シー新事業開発部、上原和也さん
新規事業に携わりたい気持ちが強く、自動車業界は今後、新規事業の機運が高まるだろうと株式会社エフ・シー・シーへ就職。量産前における製品の試作・評価や素材研究、新たな製造技術の開発などに携わってきました。
2019年に外部の新規事業創出プログラムへ参加したことが転機となり、2020年から開発部門で新規事業の企画を担当しているそうです。
「FUSEを利用したきっかけは、コロナ禍で社内のテレワークが推進されたことでした。在宅勤務が推奨されましたが、新たな事業立案というのは、既存の知識やネットワークの中だけで考案できるものではありません。
とくに単一部品のメーカーであるエフ・シー・シーが社内に持っているノウハウは限定的です。ビジネスアイデアを持ち寄れるコミュニティを探していたところFUSEを知り、会社の理解を得てメンバーとなりました」
「新たな商品・サービスを開発するには、外部の協力がどうしても必要になります。スタートアップとの協業で、新規事業を構築するケースも増えました。
その中で、つながりたい企業やビジネス領域を相談すれば、最適な人・企業とすぐさまチャットで連絡を取ってくれる。肌感覚ですが、『0.5秒で人脈を繋げてくれる』のがFUSEですね。FUSEを通してチャレンジが形になっていくのは、楽しいですよ」
スタートアップ拠点としても最適なFUSE|株式会社オトモニ取締役、深津弘至さん
シニア向けのスマートフォンの配送とセットアップのサポートサービスとして、2020年に東京で創業した株式会社オトモニ。現在は、シニアの方のQOL向上を目的とした“孫オンデマンドサービス”を展開しています。マッチングを通じて、スマホの使い方サポートや家事代行、付き添いなど身の回りの困りごとを大学生スタッフが手伝いに伺い、シニアの方へ社会的なつながりを提供しています。
同社取締役の深津弘至さんは、静岡にある企業との実証実験の実施をきっかけに浜松市に拠点を持ったそうです。
「浜松市はベンチャー支援が手厚いと、全国的に注目されている地域だと思います。そのうえ都市から中山間地域までを有し、多彩な市民が暮らす浜松市は、日本の縮図といわれます。そうした都市でオトモニのサービス価値を実証できれば、全国展開への一歩が踏み出せると考えました」
その拠点としてFUSEを選んだのは、ここまできめ細やかにスタートアップ支援をしてくれる場所はないと感じたからだそう。
「スタートアップ支援に積極的で、地元の企業との繋がりも強い浜松いわた信用金庫の職員さんや、FUSEに登録しているメンバーの方々が、お会いしたい企業や施設、人をつなげてくださいました。自分たちだけではアクセスできなかった地元企業さまとの取り組みも進んでいます」
FUSEの会員メンバーも、「みなさんエネルギーが高く刺激になっている」とのこと。
「FUSEというコミュニティがあるからこそ、浜松を拠点にさまざまなチャレンジができています。これからもサービスの価値を高め続け、全国へ展開するための足場を固めていきたいと思います」
FUSEから寄せられる相談事に応じてプロジェクトチームを結成|デザイナー 松島かんなさん
オンラインのクリエイティブスクールに通ったことで、SNS上では仲間のクリエイターと繋がっていた松島さん。ですが、FUSEを利用しはじめたことで、「地元の浜松にもクリエイターと出会える場所があったのか」と新鮮に感じたそうです。
「クリエイターさんたちとのリアルな繋がりが持てたことで、さまざまな仕事をいただいています。直近では、湖西市の地酒『濱錦(はまにしき)』を復刻するクラウドファンディングのプロジェクトに携わりました。
実行者は、湖西市の老舗酒屋・大津屋さん。72歳の土屋社長がチャレンジする姿勢に感化され、FUSEのメンバーとスクールで出会った仲間でチームを結成し、クラウドファンディングの戦略立案とクリエイティブをお手伝いすることになったんです」
クラウドファンディングは未経験でしたが、ここでもFUSEのつながりから成功のコツを教えてもらう機会に恵まれたそう。オープン2時間後には、無事に目標金額を達成することができました。
「『濱錦』のプロジェクトを通じて、地元には素敵な商品やお店がたくさん眠っていると感じました。そんなとき、クリエイターの持つデザイン力やマーケティング力がお役に立てることも多くあります。さまざまな領域のクリエイターが所属するFUSEなら、相談ごとに応じてプロジェクトチームを結成できます。
あるいは女性ならではのセンスを生かすことでも、商品やお店の新たな魅力を発掘できると思います。これからもデザインなどのクリエイティブの力を生かして、地域活性化のお手伝いができたらうれしいです」