テレワーク導入にあたり就業規則を更改しよう!変更のポイントと考え方を一挙公開(後編)

テレワーク導入にあたり就業規則を更改しよう!変更のポイントと考え方を一挙公開

テレワークを導入する際は従業員の働き方や仕事環境が変わるため、就業規則にも変更が求められます。しかしながら、自社では具体的にどのように進めていけば良いかわからないとお悩みではないでしょうか?

この記事では3回にわたる連載で、株式会社Wewill(以下:Wewill)を例に、テレワーク就業規則を作成したときの様子をお伝えしています。社労士の2名を交えたディスカッションの様子を通じて、テレワークを実施する上でポイントとなる労務設計や就業ルールなどをまとめました。従業員が5~100名規模の中小企業向けに役立つ情報となっています。

実際に、テレワーク導入のための就業規則更改は、より良い働き方や経営ビジョンを社内に落とし込むきっかけにもなります。テレワーク用の就業規則を作りたいと考えている方は、ぜひ参考にしてください。

テレワーク導入の目的から適用対象者・業務の決定、テレワークの許可申請に関する手続きまでを考えた前編の様子はこちら
フレックスタイム制下での勤務時間や休日、残業の取り扱い、また、セキュリティ対策などについて考えた中編の様子はこちら

9.勤怠管理・業務管理・情報共有のツールを見直そう

テレワーク導入にあたりWewillで見直した就業規則上の項目
テレワーク導入にあたりWewillで見直した就業規則上の項目

嘉野内:ちなみに勤怠管理システムは何を使われていますか?

杉浦:勤怠管理には、クラウドの勤怠管理システムfreeeを使っています。勤怠のほか、休憩時間も始まりと終わりを各自でシステムに打刻してもらって勤怠を管理しています。

あわせて、自社で開発した業務管理ツールを使ってタスク・業務の進捗を管理しています。今後、このツール上にはガントチャート(工程を管理するための表)を作成して、業務にかかった時間が勤怠管理システム上の記録と一致するかどうかを確認していく予定です。

嘉野内:すでにシステム上で勤怠や業務状況が把握できているので、特別に業務日報や業務報告書を出す必要はなさそうですね。テレワークでは従業員の勤務実態を把握するため、業務報告を求めるケースが多くありますが。

杉浦:そうですね。勤怠管理システム上で勤務に関する基礎データを取得していること自体が、業務日報の役割を果たしています。それよりもテレワークで今後必要になるのは、トラブル報告の仕組みかなと思っています。

嘉野内:お互いに顔の見えないところで仕事をしますから、トラブル報告の仕組みを日常業務に組み込んでいきたいとお考えでしょうか。WebカメラやITシステムを使ってテレワークの監視をする会社もありますが、そのあたりはどうお考えですか?

杉浦:それは、1000%嫌ですね(笑)!

嘉野内:では、在席管理はどのように行いましょうか?例えば、パソコンのアクセスログを取る方法もありますが……。

杉浦:それも必要ありません。業務管理システム上で、あらかじめ想定した業務時間を配分したチケットをタスクごとに発行しています。そのチケットの範囲内で、業務が滞りなく進んでいれば良いので、現状で十分だと思っています。

嘉野内:なるほど。それでは、あえて在籍管理は必要ありませんね。

杉浦:はい、これも「独立自尊」という経営理念の現れです。仕事に対する尊厳は従業員自身で保ってほしいと思っています。

ただ、勤怠管理システム上の勤務時間と業務管理ツールにおける勤務時間がずれることがあります。雑工数として処理していますが、ゼロになることはあり得ないでしょうね。

それでも今はあえて、勤務時間に締める雑工数の適正値を決めたくないんです。今後、メンバ-の勤務データが溜まっていけば、「パフォーマンスの高い人はこのくらいの雑工数」といった基準を見出せると思うので。

嘉野内:なるほど、データを取りながらゆくゆく検証していきたいですね。

杉浦:「パフォーマンスの素晴らしい人って、何をやってるのかわからない時間も一定数あるよね」という結論に至ってくれるのが私の理想です(笑)

嘉野内:なるほど、わかりました。中抜け時間(業務の一時中断)もツールで正確に記録するということで間違いないですか?「事業場外みなし労働(※)」の時間内に収めるのが一般的なので、念のため確認です。

時間場外みなし労働とは│
従業員が会社・オフィスの外で全部または一部の勤務を行った場合に、所定の時間を働いたものとみなす制度。移動時間などを含め労働時間の算定が難しいときは、所定労働時間労働したものとみなすことが認められている。

杉浦:はい、働いている時間は働いている時間としてきちんとカウントする仕組みを採りたいと思います。Wewillでは、「生産性」にこだわって働いていきたいので。

みなし労働時間制を取ると、切り捨てられる時間や、逆に追加される時間が出てしまいます。働いた時間は働いた時間として、私もメンバーもお互いに認識していきたいと思っています。

嘉野内:わかりました。勤務時間や休憩時間は、業務量によって管理いただくのが良いですね。

杉浦:ちなみに、移動時間はどのように扱えば良いのでしょうか?

嘉野内:勤務時間に入ります。

杉浦:そうすると、遠方の人を採用しづらくなるかもしれませんね。仮に、自宅からお客様のところまで往復3時間かかってしまうと労働生産性が極端に落ちますから。

嘉野内:ひとつには、自宅から近いお客さまを担当していただくといった考え方ができるでしょうか。将来的には、移動を必要としない、つまり、フルリモートな働き方もなきにしもあらずだと思います。

杉浦:わかりました。フルリモートで働くことも視野に入れておきたいと思います。

嘉野内:業務管理の要素のひとつとして、情報共有のツールについてお伺いします。Googleサービス以外にもご利用されているツールはありますか?

杉浦:社内SNSのBAND(バンド)やチャットツールのChatwork(チャットワーク)、そしてチームコミュニケーションツールのSlack(スラック)を使っています。

BANDは、社員同士がいつでも自由にコミュニケーションを取るために使っています。「こんな提案あります!」と業務に関わるお知らせを投稿したり、外部のセミナーレポートなどのためになる情報を投稿したりしています。また、「今日の〇〇さん」と写真を添付して、社内の日常の様子も発信しています。

「いいね」機能や個別のやりとりができるトークルーム機能も備わっているので、社内コミュニケーションに打ってつけなんです。

WewillのBAND活用イメージ。
WewillのBAND活用イメージ。全社的に認知してもらいたい案件の進捗や研修での気付きなどを「投稿」しているほか、個別のトークルームを作成し、業務に関するディスカッションを進行するなど幅広い社内コミュニケーションに活用している。

嘉野内:なるほど、おもしろいですね。

杉浦:BANDは導入して良かったですよ。従業員同士でフランクにコミュニケーションを取れる場になっていますし、やり取りを通じてWewillらしいチームワークも深まります。

嘉野内:社外とのコミュニケーションにはビデオ会議ツールをご利用ですか?

杉浦:そうですね。社外にはZoom(ズーム)、社内ではGoogleMeet(グーグルミート、旧称:Hangouts Meet)を使っています。GoogleMeetについては、Googleカレンダー上に予定を入れて出席者を設定しておけば、ボタンをクリックするだけでミーティングを開始できるので便利です。

Google Meetの使用シーン。
Google Meetの使用シーン。「GoogleMeetに参加する」ボタンを押すと、当該予定の参加者はオンライン会議を開始/参加できる。

嘉野内:社内に集まるよりも、オンラインツールを利用して打ち合わせをするほうがメインなんですね。

杉浦:はい、今はオンラインのほうが多いですね。

10.テレワーク下の安全衛生は具体的な目標や基準を定められると良い

嘉野内:続いて、テレワーク時の健康管理(仕事環境における安全・健康・快適さの実現)について見ていきましょう。

杉浦:テレワークを導入するにあたり、健康は自己管理できる旨を誓約書に書いてもらうような対応は必要でしょうか?

嘉野内:テレワークの承諾時、同意書に署名をもらうと良いでしょう。健康管理は自己責任で行うという内容に従業員から同意いただければ大丈夫です。

机や椅子、照明・室温といった仕事環境は、基本的に従業員の自己管理に任せるとのことでした。机や椅子、照度、室温などに関して基準を設けるのも良いかもしれません。例えば、「机や椅子は体にあったものを使用する」「照度や室温は〇〇(適切な数値)」といった記載をしておくなどですね。

杉浦:そうですね。具体的な健康管理のやり方については、別紙マニュアルを参考してもらう形で運用します。

11.人事評価において工夫/変更すべき点はないか?

嘉野内:人事評価についても考えてみましょう。テレワークでは就労実態の見えない部分が発生しますので、評価を工夫する必要があります。

ただ、御社では、ガントチャートで業務の遂行状況がモニタリングされているので、従来通りのやり方で適正に人事評価をできるでしょうか?

杉浦:はい、できます。

嘉野内:それでは、テレワークになるからといって評価方法を変える必要はありませんね。

12.会社/個人の費用負担区分と通勤手当の考え方

嘉野内:続いて、費用負担を具体的に考えていきます。情報通信の分野では、まず、パソコンと携帯電話は会社から貸与しますね。そのほか発生しそうな費用は何があるでしょうか?

杉浦:光熱費は会社で負担しません。事務用品はオフィスから持っていってもらうか、購入にかかった実費を負担します。郵送費も同様です。

嘉野内:ルーターやWi-Fiなどのネットワーク端末については、従業員の自己負担とのことでしたね。

杉浦:はい、そうです。

水谷:就業規則に記載するときは会社が負担する費用を列挙して、個人が負担する費用は「会社が負担するもの以外」とするのが良いと思います。個人負担のものを列挙してしまうと、キリがなくなってしまいますからね。

杉浦:交通費はどう考えれば良いでしょうか?

水谷:通勤手当を支払っている場合は、出社回数に応じて実費を精算する方法に転換するケースが多いです。定期も取り止め、出社を求めた日数の分だけ日割りで計算し精算する企業が増えています。

杉浦:Wewillでは全員、マイカー通勤です。駐車場代やガソリン代など、通勤にかかる費用はもちろん会社で負担しています。

テレワークになったら、非課税となる最大限度額(※)で通勤手当を一律支給しようかとも考えています。ただ、テレワークが前提なのに通勤手当を設定するのはおかしいですよね?

通勤手当の非課税限度額│
税制上、給与所得者に支給する通勤手当の非課税限度額が決まっています。
非課税限度額は、公共交通機関の利用有無や自動車や自転車の利用有無などにより区分けされています。
詳しい金額の内訳は国税庁ホームページをご確認ください。

嘉野内:いえ、テレワークの対象者であっても、マイカー利用者のために通勤手当として一律の交通費を会社が支給し、費用に計上することはできますよ。

水谷:ただ、通勤にかかる交通費と業務上の移動に要する交通費を一緒にしてしまうと、経費精算処理が少しややこしくなるかもしれません。

杉浦:なるほど、どうするか悩みますね。ただ、通勤手当としての交通費は支給せず、移動にかかる交通費はすべて実費で精算する形でも良いかもしれません。

13.テレワーク導入時やテレワーク下での教育・研修について

嘉野内:社内教育についてお伺いします。こちらで最後の項目です。テレワークが中心になったとき、新しい従業員が入社したら業務を教えるメンバーは社内にいますか?

杉浦:おもにリーダーポジションの従業員が、新入社員を教育してくれます。入社後、最初の3~6カ月はオフィスに出社してもらうので、その期間はリーダーも出社することがあるかもしれません。今後はビデオ会議ツールも活用しながら、ケースバイケースで対応していこうと考えています。

嘉野内:わかりました。新入社員の方以外にも研修を実施する場合はありますか?

杉浦:特段ありませんが、要所でウェブセミナーを見てもらうことはあり得ます。

嘉野内:その場合、業務中に実施しますか?もしくは、知識レベル向上のために任意でお願いすることになるでしょうか?

杉浦:業務上の教育としてウェブセミナーの視聴をお願いする場合は、勤務時間に充てます。社内研修にかけた時間も、業務管理システムを使って勤務時間として管理していきます。

嘉野内:わかりました、ありがとうございます。ディスカッションはここまでです。次回は、これまでヒアリングしてきた内容をもとに、いよいよWewillの就業規則作りに入っていきます。

草案ができたら詳細の確認と擦り合わせを経て、完成を目指しましょう。本日は、ありがとうございました。

杉浦:就業規則の作成には、現状をしっかり把握し、多くのポイントを確認していかなければいけないのですね。ヒアリングの項目についても、改めてWewillの在り方を考えるきっかけになりました。本日は、ありがとうございました。

目次

テレワークに移行しても大きな変更がなかった項目

以下、Wewillでは、テレワークを導入しても大きく変わらない、または現状のままで十分と判断できた項目をご紹介します。「テレワークの実施期間(頻度)」、「テレワーク時の服務規律」「通常勤務への復帰(変更)」「給与」「連絡体制」の5項目でした。詳細が気になる方は参考にしてください。

14.テレワークの実施期間(頻度)を定めるかどうか

嘉野内:テレワークを実施する期間や頻度についてお伺いさせてください。お話を伺うかぎり恒久的に実施していくと思いますが、許可制をとる場合は期間や頻度を区切る必要があると思います。

杉浦:そうですね。1回の承認で3カ月間を期限とするのが良いと思います。

嘉野内:期限がきたときに本人の希望があれば、再申請できますか?

杉浦:そうですね。そうなると、「6カ月もしくは、有期雇用期間は許可制とする」といった内容にしてもらうと良いかもしれません。まず、Wewillでテレワークに申請を要するのは有期雇用の方です。有期雇用の契約期間は3ヶ月単位で、更新しても1回までなんですね。また、S2以上は申請不要でテレワークできるようにしますので。

15.テレワーク時の服務規律について

嘉野内:服務規律についても考えましょう。このあたりは雛形を参考にしていっても良いかもしれません。

杉浦:服務規律というのは、「テレビを見ながら勤務してはいけない」といった内容になりますか?

嘉野内:そうです。「飲酒しながら勤務してはいけない」ですとか、勤務中の秩序に関わる規律ですね。

杉浦:会社を守るための規則だと思うので、やや厳しめに規程してください。

16.通常勤務への復帰(変更)について

嘉野内:通常勤務への復帰については、テレワークを導入したあとオフィス勤務に戻る場合は考えていらっしゃいませんよね?

杉浦:はい。オフィス勤務に戻すことはありませんね。

嘉野内:有期契約の方についても、通常勤務に復帰するケースはありませんか?

杉浦:その場合もありませんね。S1(有期契約)で居続けることはありませんし、無期契約になると同時に等級もS2(基本的にテレワークが許可される)に上がりますので。

有期契約が終了してWewillを去るということは、「独立自尊」で働くという価値観が合わなかったということです。長期的に自律して働ける方のみ、無期契約に転換されることとなります。

嘉野内:そうしましたら、この項目を記載する必要はなさそうですね。

17.給与面に関する変更はあるか?

嘉野内:なお、テレワーク移行にともない給与は変動しますか?

杉浦:変動しません。

18.連絡体制

嘉野内:何かあったときの緊急連絡はどうされていますか?

杉浦:今は、チャットツールを使用して連絡することが多いです。例えば、「体調不良で明日休みます」といった連絡は、みなさんChatworkやBANDに投稿してくれます。

嘉野内:わかりました。基本的には、リーダー(管理監督者)に連絡が集まるようになっていますか?

杉浦:現状は、ChatworkやBANDに投稿さえすればOKということにしていますが、今後はリーダーに連絡してもらう形で統一したほうが良いかもしれません。

まとめ

3回にわたるディスカッションを通じて、全16項目の規程内容を詰めることができました。Wewillで働く意義や経営理念、We illらしさまでも良く議論できたと思います。

このようにテレワーク就業規則の作成は、自社のビジョンや経営理念を再確認する良い機会となります。「仕方なくテレワークを導入する、就業規則を更改する」のではなく、テレワークの導入を戦略的かつ前向きに経営や生産性向上などに役立てていただけたらと思います。

テレワーク就業規則の作成に関するサポートは、嘉野内社会保険労務士事務所および水谷マネジメントオフィスで承ることが可能です。

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