2021年8月11日(水)に磐田市で、「テレワークチャレンジ」と題するテレワークの体験会を開催しました。今回は広く遠州地域内のテレワークニーズに応えるため、テレワークパーク実現委員会と磐田市中泉に本店を置く飲食店の「凜や(りんや)」の2者による共同主催です。
作業スペースを備えた「オフィスカー」や店内の個室を解放。参加者は料理などをワンオーダーする代わりに、会場設備を使ってテレワークを体験しました。イベント当日は、テレワーク相談会や草地博昭(くさち・ひろあき)磐田市長によるトークイベントも開かれました。
本記事では、当日の様子をお伝えします。
テレワークチャレンジ開催主旨
弁天島海浜公園や浜松城公園をはじめ、これまで公共施設を扱うことが多かったテレワークパーク。今回は、民営の飲食店にある駐車場をテレワークのフィールドにした「テレワークチャレンジ」を実施しました。
テレワークチャレンジが開催に至った経緯について、テレワークパーク実現委員会長の杉浦直樹氏(以下、杉浦氏)に聞きました。
杉浦氏:きっかけは飲食店をテレワークパークとして解放することで、経済的な相乗効果が得られるのではないかと考えたことです。店の駐車場内にオフィスカーを設置することで、食事がてらテレワークする人が現れるかもしれません。一方でテレワークしに来た人が、店で飲食をすることも十分に考えられます。
杉浦氏:磐田市は浜松市と隣接しています。産業面においても観光・レジャーの面においても、浜松市と切っても切れない関係です。遠州地域の活性化を考えるとき、両地域でテレワークの浸透を図ることに意義を感じました。
「磐田市におけるテレワークの現状とこれからの期待」トークセッション
静岡県にも8月8日からまん延防止等重点措置が、また8月20日には緊急事態宣言が適用され、国や県と連携しながら各種の対策を進めているという磐田市。市内でのテレワークの必要性も、以前にも増して高まっているように感じられます。
本イベントでは、草地博昭 磐田市長(以下、草地氏)と作家の沢渡あまね氏(以下、沢渡氏)、杉浦氏が対談を行い、域内におけるテレワークの現状とこれからの期待について語りました。
草地 博昭 氏|
1981年、静岡県磐田市生まれ。国立豊田工業高等専門学校卒業。NPO法人磐田市体育協会にて事務局長を務め、平成25年に磐田市議会議員に初当選。以来、市議会議員を2期務め、その間、議会運営委員長、予算決算委員長、民生教育委員長を歴任する。2021年4月、磐田市長に就任。趣味はスポーツ観戦、旅行など。公式サイトはこちら。
まず域内におけるテレワークの現状について、草地氏は次のように語りました。
草地氏:大手企業ではテレワークがだいぶ浸透しました。ここ1年半ほどの経過を見ていると、オフィスに出勤する人数がかなり少なくなっています。
一方で磐田市役所におけるテレワークの実施状況はどうかというと、まだまだと言わざるを得ません。新型コロナウイルスの感染拡大に備えて、在宅でも仕事ができる環境の整備を進めているところです。
そんな流れにあって、市内の中小企業にもテレワークが広まっていくと良いなと思っています。(テレワーク人口が増えることで)市内の空きスペースが有効活用される可能性が高まるからです。すきま時間を仕事に活用する動きも出てくるでしょう。
今日のイベント会場である、こちらの「凜や」さんが好例です。食事を楽しむ場所でありながら、今日はテレワーカーのためのオフィスにもなっています。(コロナ禍で大変な状況は続いていますが、経済活性のチャンスは残されていることに)1人でも多くの職員・市民に気付いてもらえたら嬉しいです。
テレワークにより活性化される磐田地域のポテンシャルとは?
テレワークをはじめ、業務のデジタル化による産業発展を今後に見据える磐田市。この地域のポテンシャルと今後の展望についてディスカッションが行われました。
沢渡:ものづくりをベースとした産業基盤があるのは強みです。自然が豊かで、スポーツも盛ん。レジャーを絡めたイノベーションが起こせる可能性があると思います。
そして、約17万人と人口が多い。デジタル化を進め、オンライン上で人々がつながりやすくなることで、この地域のイノベーションも加速するはずです。
草地:17万という人口数は、ほかの都道府県では中核市レベルの規模になります。これほどの人数がつながって街づくりを話し合えるようにするためには、市内にサード・プレイス(※)を増やすことが求められるでしょう。
(そこからさらにイノベーションを生み出すためには)コミュニケーションをオープンなやり方にし、関係人口を増やしていくことが重要です。
※サード・プレイスとは|自宅や職場ではない第3の場所、コミュニティ。居心地がよく、誰もが平等に関わることのできる生活や仕事の拠点。
(インターネットやSNSを介し)「個」と「個」がつながる時代になりました。磐田市としても市民や企業、職員のみなさんと一対一の関係を大事にし、一人ひとりに対して対話の場や機会をどれだけ提供できるかが勝負だと考えています。
イノベーティブな人材・企業から選ばれる街になるためにもテレワークを起点としたデジタル化が急務
杉浦氏:テレワークの導入やデジタル化と聞いて、ためらってしまう企業がありますね。お話を伺うと、心理的ハードルが高くなりすぎているパターンが多いです。いざ(テレワークやデジタル化を)導入してみると思っていたより簡単ですし、その後の業務が格段に楽になるのですが。
草地氏:私も議会からタブレットを支給されていましたが、以前はまったく使いませんでした。それが新型コロナウイルスの影響が全国的に拡大してから、タブレットが手放せなくなったのです。打ち合わせや学習ツールが、リアルからオンラインに切り替わったことによります。
インプットの多くをオンライン上でできるようになったということは、アウトプットもオンライン上でできるようになったということです。たとえば当市役所でも、複雑な行政サービスについては動画での配信を進めています(※)。情報をより多くの人にわかりやすく届けられるようになったのは、デジタル化の流れの恩恵だと思いますね。
※参考:磐田市YouTubeチャンネル
沢渡氏:テレワークを経験した企業とまだ導入していない企業との経験格差が顕著になりつつあります。できる業務からでも、できる部署からでも、とにかくテレワークを始めてみるのが大事です。そして、ITに投資(して業務効率や生産性を向上)すること。そうして業務上の不便を解消していくと、従業員1人ひとりのマインドもよりイノベーティブにシフトしていきます。
草地氏:私たちもイノベーティブな人材から選んでもらう街になるために、(磐田市の強みや魅力を明確にすることで他都市との)差別化が必要です。そのための一歩として、市のデジタル化を進めなければいけません。
実は先ほど午前中に、第1回のデジタルトランスフォーメーション推進本部会議を実施してきました。オンラインで対応できる書類や手続きはオンライン化を進るべく動きはじめています。
私がこうした対話の場に出てるのはなぜかというと、工業団地を作りそこに大手企業を誘致すれば良かった一昔前と今は時代が違うからです。私たち行政区は、「あそこは話を聞いてくれるところかどうか」という観点で選ばれるようになってきていると感じます。
しかしながら行政に書類を提出するたびに、やれハンコだ窓口に来いだと言われたら「誰が付き合うか」と思いますよね。
沢渡:そもそも、磐田の「磐」の字は画数が多いですね。書類を何枚も書かされたら、手が疲れてしまいますよ(笑)
草地:そうですね。そうした不便を重ねるうちに、「こんな自治体と関わるか」と思われ選ばれなくなってしまうことに、職員も気付かないといけません。求められる行政サービスになるためには、職場の外に出かけていき、民間の人たちと話をしてみることです。
いろんな市民や企業の方がいますから。多様性あふれた考え方に触れて認め合って、その中で何が生まれるかをみんなで対話していく。そうした対話を生み出すためのファシリテーターに市の職員がなっていかなければいけないのだと思います。
そうした「ファシリテーター」としての感覚を養ってもらうことを、職員にこれからも求めていきたいと思います。
駐車場スペースを利用してオフィスカーの体験・相談会も
広い駐車場スペースにはオフィスカー3台が配置され、参加者はテレワークを体験。テレワークパーク実現委員会より浜松市や株式会社We willが参加者からの相談に対応しました。
テレワークできる環境を整えることは、一時的なコロナ対策の枠に留まらず、地域のポテンシャルを高めイノベーティブな人材から選ばれる街づくりを加速します。今回のテレワークチャレンジが、テレワークとデジタル化、その先にあるイノベーション創出を考える1つのきっかけとなることが期待されます。