「うちの会社ではテレワークできない」は、正しいか?
杉浦:前回の記事で、「テレワーク0.5・0.0」に留まるのは、経営的に衰退するリスクを抱えているとお話しいただきました。「テレワーク1.0・2.0」に向かっていくことが、いよいよ重要になっているように感じます。
では、どうすれば「テレワーク1.0・2.0」に進めるかといえば、経営者側がマインドを切り替えられるかだと思っています。と、同時に、働く人側のマインドも変わっていく必要があるかもしれません。自律して励まないと、業務が進んでいきませんので。
沢渡:いわゆる、指示待ち型やピラミッド統制型の仕事のやり方しか経験していない人も多いですからね。その働き方の中で、どうしても主体性が育たなかったり、抑制せざるを得なかったと思います。新しい仕事のやり方へ変えることによって、自律性が芽生えたり、生産性を上げたりといった変化も生まれます。
私はよく、「成長実感」や「快感実感」をいかに創るかが大切だと伝えています。たとえば、デジタルツールを使いこなして仕事ができるようになる。自ら主体的にコミュニケーションを取っていくようになる。そこに、成長や楽しさを感じられると思います。
人は、快感を好む生き物です。実感として得られた成長や快感を「エンジン」にして、業務改善を自らどんどん進めていけるようになるんです。もちろん、全員が全員変わるとは限りません。それでも、オープン型に変わった人が社内に1人また2人と現れれば、そこから企業文化が変わり、ひいては地域の文化も変わっていきます。カルチャーとはそういうものです。
繰り返しになりますが、「テレワーク0.5」からでも構わないので、まずデジタルな経験をしてみる・社内でさせてみる。そして、成長実感や快感実感を言語化する。その2つが大事だと思っています。
杉浦:そうですね、テレワークを進める中で感じられる「成長実感」や「快感実感」をもとに、マインドを含めた社内の風土を変えていって欲しいですね。
沢渡:もう1つ、マインドの面でお伝えしたいのは、思い込みはもったいないということ。全国に出向いていると、中には、「製造業だからテレワークができない」とか「地方では無理」といった考えをお持ちの企業さんとも会います。
断言しますが、そうした考えは捨ててしまった方が良いです(笑)。自分たちを最新化して成長させる阻害要因になりかねません。
そもそも、主語にしている「製造業」「地方」というワードは大きすぎます。よく向き合ってみると、製造業であっても外に切り出してリモートでもできる仕事があります。そうして業務改善を進めている企業もあります。例えば、浜松市内でも、従業員50~60名ほどの建築関連企業で、業務分析と改善をしつつ、部分的にテレワークを実施し始めた会社もあります。
また、浜松の事例ではありませんが、ある地方都市の製造業企業では、テレワーク可能な部署があることで、社員の満足度やロイヤルティ(忠誠心)が上がりました。いまは出社必須の製造現場にいる人でも、将来家族や自分に何かがあって出社が困難になったとき、社内異動してテレワークで仕事をするチャンスがあるかもしれない。その心理的安全性は大きいですね。企業側も実際にリモート可能な部署への配置転換をしたり、リモートで仕事ができる環境を整備したりすることで、社員は安心してその会社で働き続けることができます。
杉浦:テレワーク化できる部分がひとつ見つかると、いろんなアイデアが浮かんできて業務改善が楽しくなっていきますしね。
沢渡:ちなみに、製造業でよくあるのが、全ての部署において製造ラインと同じ勤務体系であるというパターンです。品質管理も、営業部門もIT部門もマーケティング部門も、基本的には9時から17時までの固定勤務。昼休みも固定で、みんなで同じ時間に食事に行き、休憩する場所やリフレッシュする場所がほどんどない。当然、全社員が必ず出社して仕事をしなければなりません。
こうした統制型のやり方を、長らく日本の企業では強いてきたと思います。もちろん、そのやり方をしていたのには理由があって、企業内の公平感を保つためでした。しかしながら、職種や部署が違えば、どの仕事のやり方に合理性があるかが変わって当たり前ではないでしょうか。「当社は製造業だから」 それで働き方やマネジメントを一括りにするのは、「主語が多すぎる」と言わざるを得ません。
ですから、企業単位や業界単位で考えるのではなく、職種の軸や専門性の軸でもって最適な仕事のやり方を追求し、かつ選択可能にすることが大事です。
リモートでできるのか?逆にリモート・デジタルで行う方が、モチベーションや生産性も上がるのか?社員はプロとして成長できるのか?こうした考え方で、しっかり組織設計なり制度設計をやっていく必要があると思います。同じ社内でも、部署によってまったく働き方が違っても良いと思います。
テレワークから考える浜松のポテンシャル
杉浦:沢渡さんのおっしゃる通り、おそらく100社あれば100社なりのテレワークのやり方があると思います。テレワークを進めるにあたって出てくる課題は、各個人がプロとして成果を出し、組織として成長できるかに繋がっていきますね。
沢渡:ちなみに、浜松は、非常にビジネスチャンスの多い都市だと思っているんです。なぜなら、80万人もの人口を抱えているからです。若手も含めて、有能な人や柔軟に変わりうる人材がたくさんいる都市だと思います。だからこそ、先進的な働き方をする企業が増えていけば、地元にいる優秀な人材が順応していき、新しい価値を出していくポテンシャルがあると思うんですね。
さらには、大阪や名古屋、東京といった都市部とのアクセスも良いですよね。浜松の企業側がオープンになることで、ほかの都市の人たちと繋がりますし、Uターン・Iターンの受け入れも進むでしょう。移住はしなくても通ってくれる人材やリモートベースで繋がってくれる人材にも恵まれている状況にあると言えます。
だからこそ、これまでの「働き方の当たり前」を疑い、どんどんオープンに進化していきチャレンジする企業が増えてほしいと思っています。働き方で、浜松のファンを増やす! そんなイメージです。
杉浦:リスクに対応するためにテレワークをやらなければならないという考えが、今は多いと思います。これは、必要性から来る変革です。ですが、その先にある、テレワークを推進することで生まれる新しい価値にも着目していきたいものです。
沢渡:まさに、「テレワークしないとまずいよね」から「テレワークしないともったいないよね」の意識にシフトしていってほしいですね。そのためには、まず「テレワーク0.5」や「テレワーク1.0」を実施してもらい、そこで見つかる課題を組織の中で言語化して改善していくこと。そうして「快感実感」や「成長実感」を得てもらうことで、さらなる改善が進み、個人も組織も成長していきます。
もちろん、組織の成長を続けるためには、さまざまな投資が必要です。IT投資も増やさなければいけませんし、マネジメントやコミュニケーションのスキルも育成しなければなりません。それはテレワークのための投資ではなく、未来に向けた組織の発展のための投資です。
さまざまな課題ときちんと向き合って、きちんと改善・成長していって、そこから「テレワークしないともったいない」の世界に移行していってほしいと思います。
杉浦:立地の面でも人口の面でも、浜松は本当にポテンシャルの高い都市だと思います。製造業の町で培ってきた産業基盤もありますから、「テレワークしないともったいない」という言葉がまさに当てはまる場所だと思います。
テレワークの「4つのステージ」、非常にわかりやすく勉強になりました。ありがとうございます。
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【対談者プロフィール】
沢渡 あまね 氏
あまねキャリア工房 代表(フリーランス)、株式会社NOKIOO顧問(兼エンジニアリングマネージャ)、株式会社なないろのはな取締役、株式会社エイトレッドフェロー1975年生まれ。作家、業務プロセス/オフィスコミュニケーション改善士。
日産自動車、NTTデータ、大手製薬会社を経て2014年秋より現業。経験職種は、ITと広報。300以上の企業/自治体/官公庁などで、働き方改革、マネジメント改革、業務プロセス改善の支援・講演・執筆・メディア出演を行う。著書に『仕事ごっこ』『職場の問題地図』『マネージャーの問題地図』『業務デザインの発想法』(技術評論社)、『チームの生産性をあげる。』(ダイヤモンド社)、『ドラクエに学ぶチームマネジメント』(C&R研究所)など。趣味はダムめぐり。
杉浦 直樹 氏
株式会社We will 代表1975年生まれ浜松市南区出身。大学卒業後日本オラクルにて会計ERPパッケージの13社同時展開プロジェクト等、多くのプロジェクトに携わる。同社退社後、米国ベンチャー企業を経て市内税理士事務所へ入所。その後、仲間とともに税理士法人We will、株式会社We willを設立。オープンイノベーション施設であるThe Garage for startups を主催。