「働き方改革のためにテレワークを導入したいが、どのようにIT環境を整えたら良いかわからない」「テレワークの実施にあたって、固定電話やFAXをどうすれば良いか悩んでいる」とお困りではないでしょうか?
まずはインフラとなる基本的な機能から、オンライン化やITツールの導入を行うだけでも、社員の業務負担を大幅に減らせることがあります。
この記事では、そのように「小さな変更で大きな効果を生み出すテレワークのIT環境整備術」について解説します。
テレワークのために必要なIT環境とは?
テレワークを導入するために、複雑なIT環境を整える必要はありません。まずは必須といえる基本的な環境を整備しましょう。検討したいのは次の4つです。
- 固定電話とFAXの取り扱い
- パソコンやWi-Fiといった通信機器
- ITツール(の中でも基本的な機能のもの)
- セキュリティ対策
専門知識がなくても操作・運用しやすい環境を整えるのがポイントです。ITツールは、低コスト(月額支払いがおすすめ)で、自社に合わなかったときにすぐ解約できるものが好ましいでしょう。
1.固定電話とFAXは、どうすればいいの?
テレワークの導入にあたり扱いに困ってしまうのが固定電話とFAXです。どのように対処すればいいか、おすすめの方法をお伝えします。
固定電話は転送サービスを使って!
オフィス外でも固定電話を受けられるように、電話の転送サービスやアプリを検討しましょう。電話の転送サービスとは、会社にかかってきた電話を社員の携帯電話やスマホに転送できるしくみです。
電話転送のオーソドックスなしくみは次の2つです。
- 転送サービス
- アプリ
転送サービスは、事前に指定した電話番号まで、会社にかかってきた電話を転送するしくみです。着信ごとに料金が発生します。あらかじめ着信件数を調べてコストを見積もったうえで、導入を検討しましょう。
アプリを経由することで、スマホからの発着信を固定電話番号にできるしくみもあります。アプリをインストールするだけで利用でき、導入コストも抑えられます。
電話対応の集中を避けたい場合は、ネット回線タイプか電話代行サービスを
特定の社員に電話対応の負担がかかるのを避けたい場合は、複数人で着信を受けられる電話転送サービスを選ぶか、電話代行サービスの利用を検討しましょう。
- 複数人に着信を飛ばせる電話転送サービス
- 電話代行サービス
ネット回線を使用した電話転送サービスなら、複数人の電話番号で着信を受けられる場合があります。1人の回線が通話中であっても、他回線で受電できるメリットもあります。
受電から一次対応までしてくれる電話代行サービスを利用するのもよい方法です。これにより電話の一次受け対応を、外部のコールセンターにアウトソーシングするということです。専門オペレーターから必要な案件だけを選んで通知してもらうことで、自社社員が本業に集中でき、業務効率アップが期待できます。
FAXは、インターネットFAXに切り替えて!
業務上、FAXがどうしても必要という職場では、インターネットFAX(eFAX)への切り替えを検討しましょう。
インターネットFAXとは、メールやスマホ、アプリなどからFAXを送受信できるサービスです。インターネット回線を経由しますが、相手先とのやり取りはIP番号(050)のほか、東京(03)や地域の市外局番を通じて行われます。
電話回線を使わないため通信コストが安く、通信ログが残るメリットがあります。送受信形式がPDFやExcel、Wordなどなので、デジタルデータとして保管するのも簡単です。
インターネットFAXの導入方法は次の2つです。
- インターネットFAXに対応した複合機を導入する
- パソコンやスマホに専用ソフトをインストールして使う
複合機を使えば、操作方法がこれまでと変わらず扱いやすいでしょう。ただし受信データが紙で出力される点には注意が必要です。
パソコンやスマホに専用ソフトをインストールする方法は、自宅などあらゆる場所でFAXを送受信できるのが魅力です。
取引先の理解を得ながら、最小限に抑える努力を
固定電話やFAXを完全になくすことは難しいかもしれません。止めることには勇気が必要でしょう。しかし、いつまでも電話応対やFAXでのやり取りを続けていては、 相手の時間を奪う仕事のやり方を続けることになりかねません。
いつかかってくるか分からない電話の対応や、紙を印刷したり郵送したりといった手間が発生するためです。 電話対応やFAXの送受信は間接作業であり、社員の本来業務を圧迫している可能性が高いといえます。FAXにはさらに、印刷用紙やインクのランニングコストがかかるほか、原稿の紛失リスクがあります。
固定電話やFAXを使わないようにすることで、自社だけでなく取引先の業務効率アップも助けます。そのためテレワーク導入をきっかけに、固定電話やFAXをなるべく使わない環境を整えていけると理想的です。
実は、テレワークの取り組みやペーパーレス化の一環であることを説明すると、理解・協力してくれる企業が多々見つかります。相手方のメリットを提示しながら、取引先にも協力を相談してみてはいかがでしょうか。
2.パソコンやWi-Fiは会社が用意するの?
テレワークといえども、業務を実行するのに必要な設備・備品であれば、会社から支給・貸与するのが原則といえます。
労働基準法では、通信費や光熱費などテレワークの実施に係る費用を社員に負担させる場合は、当該事項について就業規則に規程しなければならないとしています(第89条第5号)。
(作成及び届出の義務)
第八十九条 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。引用:e-Gov-労働基準法
一~四:(略)
五 :労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項
六~ :(略)
いずれにしても、テレワークを実施するためにどのような機器や費用が必要で、それらを労使どちらがどの範囲まで負担するのか、労使間で十分に話し合い就業規則に定めるのが望ましいでしょう。
社員の作業効率をアップする機会ととらえれば、よいIT投資にもなります。社員にヒアリングしながら、必要な設備・備品を会社主導で検討するようにしましょう。
パソコンは何を選べばいいの?
テレワークを実施するために、必須アイテムといえるのがパソコンです。社員の自宅やサテライトオフィス、コワーキングスペースなど外部施設での就労を考えると、デスクトップ型のパソコンは不向きです。ノート型の持ち運びしやすいパソコンを検討しましょう。
続いて、テレワークで使用するパソコンにどこまでの機能を持たせるか考えます。
- 機能制限なし:通常の業務用パソコン
・データ処理やプログラミングなど、パソコン上でしたい作業がある場合
・外部のデータにもアクセスを許可したい場合
- 機能制限あり:シンクライアント型パソコン
・情報漏えいのリスクを最小限に押さえたい場合
シンクライアント型パソコンとは、ユーザー側の機能を最小限に制限した端末です。サーバー上でアプリケーション(処理)を行うので、手元の端末には情報が残りません。ただし、端末にアプリケーションをダウンロードしないので、オフラインでは作業できません。
必要なアプリケーションをパソコンに搭載して使えるようにする、「リッチクライアント型」のパソコンもあります。ただし、パソコンごとにダウンロードするアプリケーションを管理する手間がかかります。
シンクライアント型とリッチクライアント型は、ITベンダーによってシステム構築の方法やコストが異なります。必ず相見積もりをとって検討してください。
パソコンのスペックは、作業効率に関わる以下3つの観点で検討しましょう。
- 画面の大きさ
- 動作のスピード
- スピーカーの精度
1.画面の大きさ
パソコンの画面の大きさで、目安になるのが「14インチ」です。これはA4用紙とほぼ同じ面積です。
大きすぎると持ち運びに苦労しますが、小さすぎても作業がしづらくなってしまいます。購入前に実物大を確認できるとよいでしょう。
2. 動作のスピード
PCの処理速度を決めるのは「CPU(シーピーユー)」です。最低限、Core i5 以上を選んでください。
複数作業の快適性を決めるのは「メインメモリ」です。複数のアプリやサイトを立ち上げながら事務作業を行う場合は、8GB以上が必要です。
CPUもメインメモリも、パソコンに負担のかかる重たい作業を行う場合は、 より高いスペックを別途検討しなければなりません。
3. スピーカーの性能
テレワーク用のパソコン選びで意外な盲点となりやすいのが、スピーカーの性能です。「いざ使ってみると音質が悪く、ビデオ会議が聞き取れなかった」という失敗例が見受けられます。口コミを読むなどして、検討中のパソコンについて音質を確認しましょう。
パソコンに求めるスペックや優先順位は、業種や業務によって異なります。社員に使用状況をヒアリングして、最適な端末を比較検討しましょう。
参考:https://it-trend.jp/thin_client/article/type
Wi-Fiはどうしたらいいの?
会社支給のスマートフォンでテザリング(※)を行うか、ポケットWi-Fi(モバイルWi-Fiルーター)を支給するのが簡単な方法です。
※スマホのインターネットにパソコンをつなぐ方法
Wi-Fi選びで気をつけたいのは、仕事の快適さに関わる以下3つの観点になります。
- スピード
- データ使用容量
- 通信のセキュリティ
1.スピード
Wi-Fiに求めるスピードについて、1つの目安が10〜30Mbpsになります。 10〜30Mbpsの速さを具体的な作業にたとえると、以下の通りです。
- 10MBのファイルが約10秒でダウンロードできる
- 事務作業やビデオ会議がストレスなく通信できる
より高速で作業をしたい場合は50Mbps以上あると安心です。 50Mbpsの速さになると、具体的に以下のような作業もスムーズになります。
- ビデオ会議の参加人数が多い
- 動画など容量の大きいデータを扱う
2.データ使用容量
ひとつの目安ではありますが、テレワークで消費する通信量は1日2GB程度と考えましょう。これは、1日8時間パソコンで作業を行い、ビデオ会議も1~2時間程度は主催・参加する方の目安です。月の稼働日数が20日だった場合、20日×2GB=40GBがひと月に想定される使用容量という計算です。
つまり、月に50GBほどが、テレワークで働く人向けの一般的なデータ容量目安となります。ビデオ会議が多い、動画視聴が多いなどの理由でインターネット使用量が大きくなる人は、月間100GBプランや使い放題プランを選ぶと無難です。
インターネット・Wi-Fiは契約するプランによって、1日や1カ月ごとに利用できる通信量が決まります。通信量が契約の上限を超えると、使用制限がかかったり低速モードに移行されたりするので注意が必要です。
3.通信のセキュリティ
接続するときに個別のパスワード(PINコード)を求められるタイプにしましょう。パスワードを自分で設定する場合はランダムな文字列にして、定期的に更新することをおすすめします。
Wi-Fiを経由し、不正なサイトやアプリに誘導される被害も確認されています。間違ってもカフェなどの公衆Wi-Fiを使用しないよう、社員への周知徹底もおこなってください。
パソコン周辺機器は社員のヒアリングを通じて検討しよう
パソコンやインターネット環境と合わせて、周辺機器が必要となる場合もあります。部署や業務によって必要な周辺機器が異なるので、社員へのヒアリングを通じて検討しましょう。
たとえば、さまざまなデータを見ながら作業をする経理部門には、パソコンとは別にモニターが必要になることがほとんどです。営業部門では商談にノートPCを持っていくのは大変なので、タブレットがほしいかもしれません。
テレワーク導入ガイドのSTEP2で社員へのヒアリングを行う際に、部署ごとの要望を把握しておくとよいでしょう。
3.テレワーク実施に必要なITツール、まずは3つの領域をカバーして!
「ITツールがたくさんありすぎて、どうやって選べばいいのか分からない」「ITツールの中で何が本当に必要なのか分からない」と迷っていませんか?
まずはインフラとなる基本的なITツールから導入しましょう。このとき「コミュニケーション」「労務管理」「データ共有」の3領域をカバーすることが大切です。
テレワークに必要なITツールの種類と選び方については、以下の記事よりご確認ください。
4.セキュリティ対策は何をどうすればいいの?
テレワークのメリットは、いつでも、どこでも、オフィスにいるときと同じように業務を推進できることです。しかし情報セキュリティは、オフィス以上に高い意識をもって対策をしなくてはいけません。
テレワークに必要なセキュリティ対策については、以下の記事よりご確認ください。
まとめ:テレワーク環境は小さく整備して、大きな改善効果を得よう
テレワーク環境を整えるためには、インフラとなる基本的な機能に注目しましょう。中でも、ITツールの導入やオンライン化により、自社だけでなく取引先の業務効率アップを狙える取り組み方ができるとベストです。
固定電話とFAXは極力使わない方向へ。パソコンやWi-Fiといった通信機器はスペックと職場要件を要確認。ITツールはインフラとなる3領域をカバー。
このようなシンプルな設計でもテレワーク環境を整えられ、業務効率の改善効果が得られます。まだ取り組んでいないものがあれば、ぜひ検討してみてください。