テレワーク導入時における「就業規則」作成のポイントについて~「テレワークモデル就業規則」から考える。 その1(基礎設計~服務規律編)

テレーク導入にあたり、制度から働き方を支えるという意味で、就業規則の整備はとても重要です。ここでは、厚生労働省から発表されている「テレワークモデル就業規則~作成の手引き~」を題材として、水谷社労士と嘉野内社労士と一緒に「テレワーク導入時の就業規則」について考えていきます。一連のディスカッションを通じて、最終的には、浜松市内の中小企業をペルソナとして想定した「就業規則」の作成を目指していきます。

今回のディスカッションは、以下の2つの資料を基に進めていきます

資料1:厚生労働省:「テレワークモデル就業規則」 
資料2:水谷社労士作成「テレワーク勤務規程雛形」(PDF版)(WORD版) 

杉浦:本日は、お集まりいただきましてありがとうございます。今回は第1回目ということで、まずテレワークモデル就業規則~作成の手引き~【厚生労働省】(以下:モデル就業規則)と水谷社労士が作成をした「テレワーク勤務規程」を参考に、テレワーク導入時の就業規則について考えていきます。読者の皆さんもモデル就業規則とテレワーク勤務規程雛形を片手に一緒に考えていきましょう。
それでは、まずは水谷さんにポイントを解説いただきながら、3人でディスカッションをしていきたいと思います。よろしくお願いします。

水谷社労士・嘉野内社労士:よろしくお願いします。

ディスカッションはリモートで行われました

杉浦:このモデル就業規則、結構読み応えがあり、全てに目を通すのは大変でした(笑)。これは、このコロナ期間に出されたものなのですか?

嘉野内社労士:このモデル就業規則は、テレワーク用というよりは、就業規則の話がメインになっていますね。実はこれは2017年に厚生労働省から出されているもので、介護や育児で会社に行けない方を前提としたようなつくりになっています。そのため、新型コロナウイルス対策として必要に迫られた現在から見ると、少し違和感が出てくるところがあるかもしれません。

水谷社労士:そうですね。現在の状況から必要になった観点を盛り込みながら見ていく必要があると思います。それでは早速、見ていきましょう。

水谷社労士:モデル就業規則P5にも記載があるのですが、まず、テレワーク勤務を企業が導入する際には、「就業規則」の変更が必要なケースがほとんどだと思います。その際、テレワーク勤務についての定めを「就業規則」本体に盛り込む方法、あるいは別規程として「テレワーク勤務規程」を作成する方法の2パターンがあります。今回は、別規程として「テレワーク勤務規程」を作成しています。

出典:厚生労働省「テレワークモデル就業規則~作成の手引き~」

杉浦:テレワークをしない人は「就業規則」を、テレワークを許可された人はそれに加えて「テレワーク勤務規程」をそれぞれ参照すると良いということですね。追加でテレワーク勤務規程を作成したほうがわかりやすくてシンプルかと思います。

水谷社労士:そうですね。それでは「モデル就業規則」と私が作成した「テレワーク勤務規程」に沿ってポイントを見ていきます。

水谷社労士:まず、「テレワーク管理規定」の第1条(モデル就業規則P6参照)では、目的を定義します。ここに経営理念を入れる企業もありますね。

水谷社労士:第2条(モデル就業規則P6参照)では、用語を定義しています。実際には内訳として在宅勤務、サテライトオフィス勤務、モバイル勤務という主に3つが定義される形になります。今回は、在宅勤務を中心とした勤務形態を想定しているので、テレワーク勤務規程では在宅勤務の定義をしています。

水谷社労士:第3条(モデル就業規則P7~8参照)では、実際に在宅勤務の対象者についての条件です。ここは会社によって大きく変わってくるところでもあります。例えば、入社n年以上でなければテレワークは許可しないといった条件などもあり得ます。勤続年数が短いと会社での働き方を理解して、自律して仕事を進めることができないという考えからこういった規程ぶりとなっているのだと思います。

杉浦:ここはテレワーク導入時の最初の入口かなと思いました。テレワークを前提にするのか、許可制にするのか、その2択があるんですね。第3条の(2)にも記載がありますが、セキュリティ環境などを考えると、やはり誰でもどんな状況でもテレワークができるのではなく、自律的に働ける、セキュリティが担保できる環境がある等、会社によって許可の基準を作り、テレワークは許可制にする方が妥当な気がしました。

水谷社労士:実際に、第3条ではテレワークのための条件を述べていて、実務上はテレワークに関する同意書や合意書など、法的な要素を盛り込んだ書類が別途必要となります。そういった書類は社会保険労務士が準備できると思いますので顧問の社労士に相談されると良いと思います。

水谷社労士:第4条(モデル就業規則P8参照)は、先ほどの在宅勤務とは別にサテライトオフィスで勤務する場合の内容です。在宅しか検討しない会社であればここは必要ないのですが、シェアオフィスなどで勤務する際は、入れておく必要があります。

水谷社労士:続いて第5条(モデル就業規則P9~10参照)は服務規律に関する内容です。これは、就業規則本体に定められている遵守事項「以外で」テレワーク勤務に必要な服務規律を追加します。

杉浦:なるほど、一般的に守ってほしい服務規律は就業規則に記載しておき、それとは別にテレワークを行う際に守ってほしい服務規律を追加で定義するということですね。これは会社を守るという観点、働くメンバーに働き方として大事な点を理解して欲しいという両面の視点が必要だと思います。そういった視点で考えると、服務規律はどのぐらい自由に書いていいものなのでしょうか?

水谷社労士:ここは基本的には自由に記載できます。ただテレワークでは、通常の勤務よりも守ってほしいことが増えるはずですよね。あまり考えたくないですが、実は懲戒や罰則規程を適用するためには、服務規律等に記載しておかないとと効力を発揮することができません。従って、雇用契約書を作る際にも、「服務規律を理解して必ず守る」というような一文を追加するなど、全体的な管理手法の検討が必要です。
また、服務規律は随時アップデートしていった方が良く、テレワークを行う中での経験を随時反映させていくという、会社の知恵を集める規程となります。

杉浦:テレワークという新しい働き方への挑戦を行うので、実際にテレワークを実践しながら、その中で出てくることを随時アップデートしていく姿勢が大事なのですね。

水谷社労士:そうですね。例えば、服務規律にはこんな文言を入れることが考えられるかなと思っています。

  ・在宅勤務者の就業時間中の服装は就業に適し、業務の妨げとならないものとする。

 ・在宅勤務者は、業務の開始時及び終了時において、次の各号のいずれかの方法で所属長に連絡するものとする。
   (1)電話
   (2)電子メール
   (3)勤怠管理ツール

 ・在宅勤務者は、業務の遂行にあたり、情報セキュリティ規程、インターネット利用規定、電子メール利用規程、情報管理規程を含む就業規則を遵守するものとする。違反した場合は、就業規則第〇条に基づく懲戒処分を受けることがある。

上記のようなことが考えられると思うのですが、嘉野内さん、普段の顧問業務の中で、他に服務規律で工夫されているようなことはありますか?

嘉野内社労士:そうですね。テレワークでは働く方の実態が見えづらくなるので、例えば以下のような、通常以上に仕事に注力(職務専念義務)する為の規程を入れた方が良いか場合もあるかもしれません。

 ・在宅勤務中は業務に専念し、出来る限り効率的に業務を遂行する事。

他には、場合によっては、自宅で仕事に集中できない方もいるかと思うので、以下のような規程があっても良いと思います。

 ・在宅勤務中、業務に専念できない場合は、早急に会社に業務に専念できる勤務方法へ変更を申し出しなければならない。

ただし、テレワークは会社や業態によってかなり異なる内容になるのではないかと思います。そのため、こういった内容もこれといった雛形をそのまま使うのではなく、自社の実態に合わせて挑戦しながら随時課題解決してアップデートしていく姿勢が必要になると思います。

杉浦:なるほどですね。かなり具体的なイメージが湧きました。確かにここは会社毎に異なる内容になると思います。就業規則自体もそうかもしれませんが、メンテナンスし続けるということが、変化の激しい現在においては必要な姿勢だと思いました。ありがとうございました。それでは、ここで一旦区切りとさせていただき、次回はいよいよ中核となる、時間管理についてディスカッションンしていきたいと思いますので宜しくお願いします。

水谷社労士・嘉野内社労士:宜しくお願いします。

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【対談者プロフィール】

社会保険労務士 水谷拓郎氏
水谷マネジメントオフィス1981年生まれ。大学卒業後、システムエンジニアとして大手製造メーカーのシステム開発に10年間従事。 その後、社会保険労務士として独立・開業。企業の労務顧問業務のほか経営IT化支援にも力を入れている。 趣味はお酒、邦ロック、NBAなど。

社会保険労務士 嘉野内雅文氏
嘉野内社会保険労務士事務所1968年生まれ、金融業5年、人材派遣業に10年従事。その後キャリアカウンセラーを経験し社会保険労務士として独立開業。 楽しく働く職場づくりを支援する事を目的として活動している。 静岡県人づくり事業を静岡県から受託し、正社員への登用を増やす等、積極的な活動を行っている。

杉浦 直樹 氏
株式会社We will 代表 1975年生まれ浜松市南区出身。大学卒業後日本オラクルにて会計ERPパッケージの13社同時展開プロジェクト等、多くのプロジェクトに携わる。同社退社後、米国ベンチャー企業を経て市内税理士事務所へ入所。その後、仲間とともに税理士法人We will、株式会社We willを設立。オープンイノベーション施設であるThe Garage for startups を主催。

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